いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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加奈崎芳太郎 

markrock2009-03-16

/ Piano–Forte(ピアノ・フォルテ) ( Pony Canyon PCCA-02861 / 2009 )


出た!加奈崎芳太郎7年ぶりのソロアルバム。古井戸の結成から来年で40周年を迎える彼。2004年には加奈崎UNIT名義で『青空』をリリースしてはいたけれど、ソロとしては自主レーベルK-Anarchy(カナーキー)レコードよりリリースされた2002年の『レッツ・ゴー・アンダーグラウンド以来のフルアルバム。しかも今作はPony Canyon「フォークの匠」シリーズの一作ということで、久々のメジャーリリースに期待もひとしお。


さて、今回の対決相手に選んだのは元上田正樹サウス・トゥ・サウスの中西康晴。井上陽水長渕剛中島みゆきをはじめ、数多のセッションで知られる百戦錬磨のキーボーディストだ。ジャケの通り、現在の加奈崎のホームグラウンドである長野県は岡谷市にある文化会館(カノラホール)における緊張感のある生レコーディングが素材。


ドキドキしながらプレイヤーを再生させると、しっとりとしたスタインウェイの音色からM-1”My Girl”が飛び出す。前作『レッツ・ゴー・アンダーグラウンドでも冒頭を飾っていた1曲だが、長く歌い込まれているだけに、既にスタンダードの風格。M-2”こどもたちのうた”やM-3”世界は僕たちを見ている”では流石サウスのピアニスト!と思えるロールするピアノが堪らない。加奈崎の音楽に新しい世界観をもたらしてくれている。加奈崎も徐々に唄にのめり込んでゆく。むせび泣くハープソロに胸を打たれるM-6”月に腰かけて”や、M-7の”桃源”は『レッツ・ゴー・アンダーグラウンド以来久々に聴いたが、改めて名曲と感じる。とりわけM-7”桃源”のテンションにはなぜか、ジァン・ジァンのライブに通っていた10年前をふと、思い出す。


続くM-8”悲しみの正体”では言葉と情念がほとばしる加奈崎のロックが今も健在と思い知る。さらに、かつての名曲”オヤジのオートバイ”と地続きに思えるM-10”ジャパニーズ・ウェディング・ソング”。2009年の加奈崎が叫びまくるコノ説得力は、尋常ではない。


本作は遺作なのでは?と言う声もファンの中からは聞こえてきている。確かに、人類が世界中で脈々と親から子へと受け継いできたものを一つ一つ、加奈崎芳太郎が、一人の男として、父として、歌い手として、次なる世代に伝えきったと言う感慨が本盤には満ち満ちている。50歳になった加奈崎が作ったM-5”OLD 50”の感傷も今までにないものだったし、本盤前半に収録された、近年のライブでよく歌われている楽曲群にもそうした色彩が多分にあった。


思い返してみると、私自身、加奈崎芳太郎と言う唄い手には特別な想いがある。世の中の不正やら、旧い伝統やら、ジョーシキなるものやら、自分の情けなさやらに、不満や疑念や不信や違和感を感じていた学生の頃。ソレラと本気で戦っている大人が果たしてどれほどいるのだろうか?なぜだかそんなことを、真剣に考えていた。そんな時出会ったのが加奈崎芳太郎の音楽。ストイックなまでの客観性を備え、人間の本能的なエネルギーを爆発させた音に、それこそ脳天を打ち抜かれるような衝撃を受けたものだ。何か答えをくれるような気がして通いつめた渋谷ジァン・ジァン、神がかったステージ、今も忘れられない。


しかしそれも1999年12月22日、この日が最後のライブとなってしまった。衝撃のジァン・ジァン閉店。それに伴い加奈崎は“さらば東京”と言い残したまま、街を去ってしまった。そのショックと言ったら… 


それから10年。無我夢中で走り続けてきたような。沢山仕事も変え、やっとのことで定職に就き、結婚もして、子供も出来て…気が付けば30になる自分がいて。安穏と落ち着いてはいけないと思う心の中は10年前と何も変わらないのだけれど、責任なんてものも自覚しなければならない年齢になったようにも感じられる今日この頃。そんな時に届いた加奈崎芳太郎の10年ぶりの新作。兎にも角にも、沁みました。”ジャパニーズ・ウェディング・ソング”じゃないけれど、加奈崎芳太郎に“サンキュー”と言いたい気持ちに襲われて、どうしようもない。でもこれで最後ではなくて、いつまでも、今まで通り、加奈崎さんは前を歩いていて欲しい、なんて想いも、まだあるのだ。