/ At The Edge Of The Wave ( OnSong 002 / 2008 )
ギャラガー&ライルのベニー・ギャラガーの新作。ここの所阿呆のようにコレを聴いている。大傑作!!グレアム・ライルは2003年に初のソロ作『Something Beautiful Remains』をリリースしていたけれど、ベニーにとっては初のオリジナル作品で構成されたソロアルバムということになる。個人的にはギャラガー&ライルやマクギネス・フリントの音、フォーキー・サウンドの最高峰という位置付け。S&Gより薄口で声量も無いのだが、じんわりとメロが切ない辺りが堪らない。適度なアーシーさも良し。
彼らの関わった作品は集め切っているのだが、それでも、後にティナ・ターナーなどのソングライターとして成功を収めるライルにばかり目が向いていて。ギャラガーの真価に気付かなかった私はファン失格かもしれない。本作を耳にしてやっと、ギャラガー&ライルらしさ、とも言えるフォーキー・サウンドを形作っていたのは実はギャラガーだったのだ、と言う事実に気が付いたのだから。
とにかくM-1”Would the last one leaving New York Town, please turn the lights down”を聴いてみて欲しい。アコギの3フィンガーにサックスが絡んでくる、初期ギャラガー&ライルのサウンド。イントロから胸が締め付けられる展開。そこに、朴訥とした詰まった声のギャラガーのボーカルが載ってくる辺りで作品に引き込まれる。ニューヨークを題材としたこの曲を聴いてもちろん思い出すのは”Heart in New York”。アート・ガーファンクルの『Scissors Cut』に収録されたヒット曲で、S&Gの『Concert In Central Park』でも演奏された。その名ライブ盤に収録された唯一の外部ライター曲となったことは、彼らにとっても誉れであったことだろう。ロニー・レインの思い出を歌ったスタンダード調M-2”Dream on”もギャラガー&ライルの初期作に収録されてもおかしくない流麗な3フィンガーの佳作。ギャラガー&ライルはロニーの大名盤『Anymore For Anymore』をサポートしていた。M-3”Upton girls”もシャッフル感が彼らしい。M-4”Two to the moon”は切ないメロがなかなか。M-4とM-5”Worksong”はグラスゴー出身の彼らしく、クライドサイド造船所で過ごした少年期を思い出して書いたセンチな曲。M-5は同じ場所で同じ時を過ごしていたと言うコメディアン、ビリー・コノリーと思い出話をした晩に書いたのだとか。ソングライティングのクレジットにあるBenny Gallagher / Graham Lyle?、の「?」ってのが気になるのだが。
アコーディオンの音色が懐かしいM-6”It brings a tear to my eye”、シャッフルバラードM-7”Let’s go out dancing”に続いては、3フィンガーの甘酸っぱいフォーク、M-8”Tusitala”が。西サモアを愛した『宝島』のスティーヴンソンだが、その死に際してサモアの酋長から、我等の愛するTusitalaよ、と言われたのだという。Tusitalaとは”Teller of Tails”、さしずめ語り部と言ったところか。さらにM-9”The day that Brooklyn died”は1957年のブルックリン・ドジャースのロサンゼルス移転をして“ブルックリンが死んだ日”と繰り返す、これまたセンチメンタルな内容。黒人初の大リーガーであるジャッキー・ロビンソンがいたあのチーム。M-10”A gift of a life”は陽気なレゲエビートで。コレ、グラスゴー・ガーデン・フェスティバルのため、1988年にギャラガー&ライルが再結成して書かれた”You put the heart back in the city”なんかにも感じられる明るさ。M-11”The salt of her tears”はスティングを思わせるシリアスなテイスト。そしてラストのタイトル曲M-12は裏ジャケを見ながら、トロピカルに聴く。
全体を通してアクースティックなこの盤、こう云う盤を待っていたんだ!と心から思える作。プロデュースはジュリアン・ギャラガー。明日はもう一枚の新作ライブ『On Stage』を取り上げようかと。ちなみに、ギャラガー&ライルのアップル時代の未発表デモだが、”Technicolour Dream”と”In Your Wonderful Way”が編集盤『An Apple a Day: More Pop Psych Sounds from the Apple Era 1967-1969』(2006)に、“Goodbye Mozart”が編集盤『Treacle Toffee』(2008)にひっそり収録されているのでファンは必聴。