/ The Greatest Songs of the Eighties ( Arista / 2008 )
50年代、60年代、70年代、と続いて今度は80年代名曲集。歌うはバリー・マニロウ。この人、曲と容姿の良さは一定のクオリティを超えているけれど、歌は凡庸だと常々思う。同じポピュラー歌手でも、ポール・アンカやトム・ジョーンズ、ジョニー・マシスの歌唱の方が個性的で好感を抱く。シナトラなんかには足元にも及ばない。
とは言え、存命のラスベガス系歌手の中では、人気の面でも実力の面でも、最高峰。意外なのは年齢。若作りしてますが、1943年生まれですから、今年で66歳を迎えるという。俄かに信じ難いけれど。そういう意味では今回の順応っぷりは偉大かも。
さて、本作だが、今回もクライヴ・デイヴィスの後見で、コレデモカ、という作り。リリカルに迫るというより、ゴージャス過ぎて、大有名曲を揃えているにも関わらず、オリジナル以上に大衆性を持ってしまう辺りはこの人の持ち味。選曲はなかなかで、特に良かったのはピアノを基調としたバラード。ヴァン・モリスン(ロッド・スチュワート)のM-4”Have I Told You Lately”を頂点に、ジャーニーのM-2”Open Arms”やリチャード・マークスのM-8”Right Here Waiting”が素晴らしかった。こうした時空を越えたプロダクションにはうっとりさせられる。ボッサアレンジのM-5”I Just Called To Say I Love You”(スティーヴィー・ワンダー)も趣味がいい。一方、下世話すぎるのは、リック・アストリーのM-3”Never Gonna Give You Up”とか、M-7”Careless Whisper”(ワム)やリーバ・マッキンタイアとデュエットしたM-1”Island in the Stream”(ケニー・ロジャース&ドリー・パートン、曲はビージーズ)。リック・アストリー!全くもって懐かしい。この人は凄まじいブルーアイド・ソウル歌手だったが、ストック・エイトキン・ウォーターマンのプロダクションの下ではその実力も霞んでしまった。ストック・エイトキン・ウォーターマン!ってのも、こんな固有名詞が頭の奥底から出てきたことに驚いてしまった。カイリー・ミノーグだとかバナナラマ、シニータとか色々いました。小室並に一世を風靡した感がある。日本でも広瀬香美“ロマンスの神様”なんてモロに彼らの音作りだった。
そうそう、その他でハマっていたのは、M-9”Arthur’s Theme (Best That You Can Do)”。クリストファー・クロスの”ニューヨークシティ・セレナーデ(邦題)”ですな。このロマンティックな音楽はバリーのゴージャスさでもってでもして立ち向かわないと、本当の意味では負けてしまう。だからクリストファー・クロスはフラミンゴだったのだ。AORは都市生活者が想像力を働かせることで楽しむ音楽。M-10”Hard To Say I’m Sorry”は、現シカゴのジェイソン・シェフがコーラス参加。ジェリー・シェフの息子であるジェイソン、シカゴを脱退したピーター・セテラの傀儡としても有名。
ポール・アンカが『Classic Songs My Way』(2007)で強引なジャズ・アレンジにしていたM-11”Time After Time”は個人的に好きな曲なので期待するが、これは平凡。フィル・コリンズのM-6”Against All Odds(Take A Look At Me Now)”の方が気張っていて良かった。気張っているといえば、マライア・キャリーが『Rainbow』(1999)でカバーした同曲は名唱だった。ラストは映画『Dirty Dancing』に使われたビル・メドレー&ジェニファー・ウォーンズのM-12”(I’ve Had)The Time Of My Life”。しっとりと幕を閉じる。
ちなみにクレジットに目を移すと、久々にロン・ダンテやマイケル・ロイドの名を見て懐かしくもなる。