/ Tell Tale Signs : The Bootleg Series Vol.8 ( Columbia / 2008 )
ディランのブートレッグシリーズ8作目。近4作のミッシング・ピースを完結する一品。ブートではなくオフィシャル作品ならば疑いもせず買う、という私はディランの妄信的なファンなのかもしれないけれど、彼の作品のクオリティは凡百のミュージシャンと比較するのも馬鹿らしくなる程だと思っている。
さて、ダニエル・ラノワが手がけた『Oh Mercy』(1989)以降の近年のディラン作品のオルタネイト・テイクや未発表曲を収めた本作、色々試行錯誤を経て楽曲がお目見えするプロセスを見て取れるのが面白い。個人的にはリアルタイムのディランを見てきた時代と言うこともあり、感慨深い。
2枚組の本作で特に印象に残ったトラックを言うと、まずは『Oh Mercy』に収録されたDisc1-2”Most Of The Time”のハーモニカ&ギターの弾き語りヴァージョン。しゃがれが進行しつつも艶っぽさのあったこの頃までのディランの声は好きだ。続いてDisc-1-3”Dignity”のピアノ・デモというのも素晴らしい。ディランの息遣いと共鳴しあうピアノのタッチが最高。ロカビリーっぽいベースリフの『Oh Mercy』時のテイクDisc-2-6も悪くない。さらに、エリック・クラプトンもカバーしたDisc-1-7”Born In Time”の『Oh Mercy』セッション時のテイク。奥行きを感じるラノアの音で聴く名曲に酔う。Disc-2-4 ”God Knows”も”Born in Time”同様『Oh Mercy』でオクラになって『Under The Red Sky』で再登場する曲だが、このセッションのほうが勢いを感じて大分印象が違う。シェリル・クロウに提供した”Mississippi”は両ディスクの冒頭を飾っているが、どちらも違うアレンジで聴かせてくれる。コレ、シェリルのヴァージョンもなかなか良い。さらに、『World Gone Wrong』の未発表テイク、Disc2-2”32-20 Blues”はイカした弾き語り。ロバジョンものもこうして披露していたとは。Disc-2-7”Ring Them Bell”のライブヴァージョンは思わずチビりそうになる良さ。カーター・ファミリーのDisc-2-10”The Girl on the Greenbriar Shore”は1992年のライブでの弾き語り音源。語り口の鋭さに老いは感じない。同じ1992年のライブ音源Disc-2-12”Miss The Mississippi”は、『Good As I Been To You』制作のヒントを与えたデビッド・ブロムバーグのバンドを従えた音。ラルフ・スタンレーと歌ったブルーグラスDisc-2-13”The Lonesome River”は1998年の既出音源ながら初めて聴いた。ラルフがキレイなハーモニーを付けている。ラストDisc-2-14"'Cross The Green Mountain"は『Gods and General』(2002)のサントラに収録されていたものだが、フィドルの音がやたら心に突き刺さる佳曲。
デラックス・エディションはコレに加えて3枚目・12曲が付いてくるわけだけど、幾らなんでも高過ぎる。
ディランと言えば、近年、自作やラジオ放送を通じて戦前のポピュラー音楽の語り部としての側面を強めている。ちなみにそのラジオ音源はブートで購入可。