J.D.サウザーの代表曲20曲を収めたサンプラー。最近入手したものだが、このJ.D.サウザー、まともなベスト盤の類はいまだ出ていない。というのも寡作ゆえのことだろう。イーグルス結成前のグレン・フライと組んでいたロングブランチ・ペニーホイッスルで1枚(『Longbranch/Pennywhistle』)、アサイラムから『John David Souther』(1972)、『Black Rose』(1975)の2枚、コロンビアから『You’re Only Lonely』(1979)、ワーナーから今のところ最後の作品『Home By Down』(1984)、ソロではこんなところか。後はサウザー・ヒルマン・フューレイバンドで『The Souther Hillman Furay Band』(1974)、『Trouble In Paradise』(1975)が出ているのみ。
選曲は無難なものだが、サウザーのソングライティングの巧さが伝わるよう、イーグルスの”New Kid in Town””Best Of My Love””Heartache Tonight”やドン・ヘンリーの”The Heart Of The Matter”、さらには実際付き合っていたリンダ・ロンシュタットとのデュエットなんかの提供曲もちゃんと収録。こうして見てみると、アーティストは変われども、カントリーのメロをベースにしつつ、薄口ながらアメリカ人の心にシッカリ入ってくる優男サウザーの個性が浮かび上がってきて実に面白い。切ない曲が多いです。
もちろんサウザー・ヒルマン・フューレイバンドの”Mexico”を入れて欲しかった、とか欲を言えばキリがないのだが、とにかくいずれのオリジナル盤にも珠玉の佳曲が詰まっているわけで、まあそれはそれぞれの盤を聴くとしたい。ところで、『Home By Down』は余り評価の高くないアルバムなのだが、ディキシー・チックスもカバーした”I’ll Take Care Of You ”はじめ名曲ぞろい。個人的には密かな「心のアルバム」。というのもサウザーのボーカリストとしての絶頂期はこの頃だったのではないかと思っているからだ。にも関わらず、80年代以降は俳優業などに転じ、自らのレコーディングキャリアをストップさせてしまったのが返す返す惜しくてならない。
数少ない80年代以降のレコーディングとしてはサントラでの単発がいくつか。『’About Last Night』(1986)に収録された哀愁バラード”Step By Step”、『Permanent Record』(1988)収録の”Wishing On Another Lucky Star”(産業ロックテイストもある名曲!)、『Always』(1990)に収録された”Smoke Gets In Your Eyes”の溶けそうな名カバーが挙げられる。いずれもスバラシイ出来。
それ以降はと言うと、1997年のローウェル・ジョージのトリビュート盤『Rock And Roll Doctor』(日本からは桑田佳佑が参加)で歌った”Roll Um Easy”、2005年にはなんとバディ・ホリーのバックを務めたクリケッツのトリビュート盤で久々に肉声を聴かせてくれた。さてさて、”A面で恋をして”の元ネタでもある”Everyday”を歌ってくれたJD、エコーが無いにも関わらず震えた声で、さすがに「老いたな」という印象を受けた。ベス・ニールセン・チャップマンとエヴァリーの”Sleepless Nights”をデュエットした頃(1997年)やバリー・マンと”I Just Can’t Help Believing”をデュエットとした際(2000年)にはオトロエを感じさせなかったのだが。いや、むしろそもそも逆に深いエコーをかけた方が映える声なのかもしれない。
そう言えば、1979年のヒットアルバム『You’re Only Lonely』はロイ・オービスンの”Only The Lonely”を種にしたタイトル曲はじめ、”White Rhythm & Blues”ではフィル・エヴァリーをゲストに迎えて擬似エヴァリーに挑戦したり、ビートルズ以前のアメリカンポップスへの憧憬を’80sの音で再構築してみせた名盤で、そのアイデアが大滝詠一『ロング・バケイション』へと受け継がれたことも忘れてはならない。大滝自身後年それを明かしている。
1. New Kid in Town / The Eagles
2. Simple Man, Simple Dream / JD
3. The Heart of the Matter / Don Henley
4. White Rhythm & Blues / JD
5. Best Of My Love / The Eagles
6. Go Ahead and Rain /JD
7. Her Town Too / James Taylor & JD
8. Prisoner In Disguise / Linda Ronstadt
9. Last in Love / George Strait
10. If You Don’t Want My Love / JD
11. You Never Cry Like A Lover / The Eagles
12. Run Like A Thief / Bonnie Raitt
13. If You Have Crying Eyes / JD
14. Heartache Tonight / The Eagles
15. Some People Call It Music / JD
16. Faithless Love / Linda Ronstadt
17. I’ll Take Care Of You / JD
18. Midnight Prowl / JD
19. I Can Almost See It / Linda Ronstadt
20. You’re Only Lonely / JD