いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
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2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの選曲・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
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2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
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2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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Yusuf (Cat Stevens)

markrock2006-12-08

/ An Other Cup (2006)


70年代のシンガーソングライターとしてはトップクラスの人気を誇ったキャット・スティーブンス。”Morning Has Broken(雨に濡れた朝)”やミスタービッグも90年代にカバーした”Wild World”そして”Moonshadow”や”Father And Son(父と子)”で御馴染みだ。デビューは60年代後半にイギリスのデッカから。アイドル的なイメージもあるスタンスだったが、1970年A&Mに移籍してから1978年までの諸作はいずれも素晴らしい出来の盤ばかり。深みのあるアルトヴォイスでじっくりとメッセージを歌いこんでいく。アクーティックギターのカッティングの独特のリズム感は明らかにアルバートハモンドがキャットのそれを拝借していた。そんなキャットもイスラム教に改宗し、アーティストネームを「ユセフ・イスラム」と改めた頃からは至って寡作。ポップファンの食指が伸びる作品のリリースはもはや無いと諦めていたのが本音。

だから今回の28年ぶりのポップ復帰作にはビックリが先行。中身を聴いて二度ビックリ。なかなかの「売れ線」に仕上がっているのだからオドロキだ。裏ジャケのキャット(現ユセフ)はアラブ人そのものの風貌。風貌は変わってもキャットのものとしか思えない美しいメロと変わらぬ歌声に始まるM-1”Midday (Avoid City After Dark)”から心地良い音。キャット自身の間奏のギターカッティングも懐かしい。生きる喜びに満ち満ち、神への感謝が歌い込まれる。さらにシングルカットするならコレでは、と思わせられるM-2”Heaven / Where True Love Goes”の出来が素晴らしい。ストリングスやコーラスと絡まって印象的なリフレインが繰り返される。M-3”Maybe There’s a World”は70年代のキャットの音と全く同じ感触が味わえる佳曲。サビでユニゾンのボーカルを重ねているのだと思われるが、キャットっぽくなりますね。さらに面白いところではアニマルズの、というか尾藤イサオのカバーと言った方が判り易いがM-7”Don’t Let me Be Misunderstood”を切々と歌っていたり。よく考えてみればマイナー調で揺らぎのあるメロがキャットの中近東志向と符合する。アコギのリフが印象的なM-8”I Think I See The Light”やポップなサビを持つM-10”The Beloved”もなかなか。全体的にみてさすがにスピリチュアルな仕上がりだが、特定の宗教を思わせる押し付けがましさは皆無。全てを包みこむかのような温かい歌声がいつまでも耳に残る。私事ながらかつて、60年代にヒッピーの聖地でもあったネイティブアメリカン居住区に赴いたことがあったが、そこのレコードショップでなぜかキャット・スティーブンスを聴きたくなり、カセットを買ってしまったのを思い出す。なぜだろう。宗教戦争が繰り広げられる昨今、西洋文明に育ちながらイスラムに改宗した彼のピースフルなメッセージに耳を傾ける価値は十分にあるだろう。

“On his return to music, Yusuf says "I feel right about making music and singing about life in this fragile world again.”