/ A Christmas Album ( Rankin Music / 1999 )
そろそろクリスマスの時期ですね。ホリデイアルバムと言えば、ベテラン歌手がご褒美に作らせて貰える盤。作らせてもらえない歌手は自分で作ったりします。スティーヴン・ビショップもそうでしたが。
さて、ここで取り上げたケニー・ランキン。東京コットンクラブでの来日公演(2006.11.16 2nd Stage)に行って参りました!素晴らしかった!!行くのは先ほど挙げたビショップとのジョイントライブでの来日に次ぐ二度目。67歳になったランキン、わずか1mの目の前の席に陣取ったこともあり、緊張。コレほどライブで期待と興奮の入り交じった緊張を覚えたのは久々です。
近くで見るとデカイ。チャンピオンベルトみたいな巨大なバックルも気になる。ボロボロのクラシックギターをひょいっと抱えて歌いだすとほぼマイクで拾ってないかのような生音で、あの声量あるファルセットが、緻密なスキャットが、飛び出してくる。
名ライブ盤『The Bottom Line Encore Collection』を髣髴とさせる選曲。息のあったウッドベースがランキンに伴走。最近紙ジャケCDが出たジョージー・フェイムでもヒットした”Peaceful”、個人的に一番好きなジャズボッサ”In The Name Of Love”に”Haven’t We Met”なんかの自作曲はもちろん、ケニーの身上である独特のカバーモノも秀逸。”Penny Lane”、While My Guitar Gently Weeps”、”Blackbird”という御馴染みビートルズもの、ドゥ・ワップでは”Why Do Fools Fall In Love”、NY繋がりのローラ・ニーロ”Time And Love”、近年大事に歌い継いでいるジャズ・スタンダードではバーデン・パウエルの”Birembau”、低音が魅力だったモンクの”’Round Midnght”、ラストにアカペラで聴かせた”Because of You”などを選曲。年齢もあるのかジャズモノが一番歌い易そうに感じた。当日のコンディションもあったのか歌いにくそうな曲もあったわけで。混沌としたフォークロック風な1stに収録されていたディランの”Mr. Tambourine Man”が聴けたのも実に貴重だった。同じ部屋で弾き語っているように親密にギター一本で、時にはピアノも弾きながら、ジャズ・ボサノヴァ・フォーク・ ドゥワップ・フラワーロックまで貪欲なまでに吸収した音楽がケニーの体内を介して実に魅力的な音楽に生まれ変わる過程を目の当たりにするのは、実にマジカル!
しかしながら、客層を拝見するに、ファンの3割は『Kenny Rankin Album』(1977)、『After The Roses』(1980)辺りをバイブルにしていたであろう、なんとなくクリスタルな40代後半〜50代前半の親父。さらに7割はフリーソウルムーブメントの中で『Silver Morning』のレコ(先日CD化されましたが)を愛聴していたであろう20代後半男女か。しかしそれを見るにつけ、あえて言えば、フォークロックからウッドストックに向かうまでの60年代後半にキャリアを形成しかけていたまさに「ピースフル」でヒッピーなケニーの側面が無視されている気もしたのだ。ディランの歴史的名盤『Bring It All Back Home』にギタリストとして参加しているというキャリアもそうだし、ライブ冒頭のジミヘンのマネをするユーモアや1970年の『Family』のジャケよろしく家族愛を強調するMCとか、ビートルズを歌い継いでいるのもそうだし、音楽的にというだけでなく思想をも内包した形で60年代文化を伝える人物だと改めて感じられたのである。様々なジャンルがぶつかり合い、刺激を受け合い、新しい音楽が生まれていた60年代。ケニーの雑多な音楽性もそこから生まれたと考えれば合点がいく。
さて、最後にもっとマジカルな出来事があった。一緒に見に行ったNatural RecordsのTakehirooo君。なんとケニー・ランキンにサインを求められてました!!Natural Recordsの新作を手渡したところ「サイン書いてよ」と。Takehirooo君もケニーをとりわけ信奉する一人。音楽と音楽が繋がりあう瞬間。この広い世の中、一生会えない人の方が多いだろう。でも音楽を通じて出会うことが出来るんですね。余りに素晴らしくて泣きました。
物販で売られていた『A Christmas Album』ですが、なんと1000円。私。CD baby通じて送料含め3000円位で買った記憶が。これだけは虚ろな気分であったが…まあ良し!