/ Silver Morning (Rankin Music Productions / 1975 )
唯一未CD化だったケニー・ランキンの名盤『Silver Morning』が、かつてクリスマスソング集『A Christmas Album』を出した自身のレーベルRankin Music Productionから待望のCD化。ほんと待ってました、という感じで即購入された方も多いかと思う。ちなみに、現在日本のレコ屋にも入荷して来てますが、4400円くらい。またネットオークションでも個人輸入して法外な価格を付けている輩までいる始末。普通にCD babyからペイパル通じて買えば、送料込みで3300円位ですので騙されぬよう(1週間位でエアメールで届きます)。
仕様はデジパック。ブックレットはナシ。4ビートな”Why Do Fools Fall In Love”(言わずもがなフランキー・ライモンのカバー)がラストにボーナス収録されている。もっとも既にベスト盤で聴けますが。
さて、音のほうですが、ちょっとモコっとした感じで、『A Christmas Album』でも感じたことだが、良くはない。LPやライノのベスト盤収録の本作曲を聴き慣れていたので、そちらの方が音は良かった感じも。ちょっと歪む感じの箇所もあったり。マスターの状態なのか。まあそれは祝CD化ということでもう触れません。
タイトル曲M-1”Silver Morning”はピアノでゆったりと。近作『A Song For You』まで変わらぬ世界がこの頃から既にあった。後半の混沌としたプログレッシブな展開は流石にこの時代を感じさせる。さらにM-2”Blackbird”はポール・マッカートニーのロック殿堂入りに際して式典でケニーが演じたこともある一曲。誰よりも独創的なカバー。さらにM-3”In The Name Of Love”は世紀のジャズボッサ佳曲で、この盤の価値を高めている。機械のように正確なスキャット、めくるめくコードチェンジにもうアタマがくらくらしそう。ちなみにこの曲、60年代にレコーディングされた未発表初期バージョンもあり、1997年に出た海外のコンピ『FREEDOM TIME』に収録されている。おそらくデモバージョン。これは必聴!ちなみに60年代のケニーはと言えば、初のソロ作『Mind Dusters』以前にも、ボブ・ディラン『Bring It All Back Home』にギタリストとして参加したり、ソロEPを幾つか出したりと。その頃のソロEPは中古盤でもレアで高い。名ボッサ”Soft Guitar”とかはその頃にもレコーディングされている。ところで、その他にケニーのアルバム未収録音源で素晴らしい出来のものとしては、1983年にローラ・ニーロとデュエットした” Polonaise”があり、これもとろける一品。
さらにまた本盤に戻ると、カーティスのM-4”People Get Ready”をメロウに流し、M-3に並ぶ大名曲M-6”Haven’t We Met ”(カーメン・マクレエ、メル・トーメのカバー有)の作者版もサラッと。うっとり、の出来。M-7”Penny Lane”はAメロをレコーディング中に歌詞を忘れたから!とスキャットで歌ってしまっているこれまた超絶カバー。ジャジーなアクースティックものを演らせたら後にも先にもケニーを越える人は出ないでしょう。M-9”Birembau”は後にも再演されているライブでも定番の一曲。
ということで、改めて名曲がこれほどに詰まっていた盤だったのか、と気づかされる。『Like A Seed』 『Kenny Rankin Album』、玄人好みな『Inside』、それに初期の『Family』、90年代に入ってからは『Because Of You』など名盤は数多いが、完成度は本作が随一かも。まあ本当のことを言うと最高傑作は1999年発売のライブ盤『The Bottom Line Encore Collection』だったりする。一家に3枚ですよ。近年もこのライブ盤と同様のクオリティの超絶ライブを続けている。2002年にスティーヴン・ビショップとジョイントで来日したが、そのライブもギター一本あるいはピアノ弾き語りの素晴らしいもの。バックステージでは、おどけたスティーヴンと比して、ちょっと神経質そうな感じもした。サインを貰おうと、彼自身が嫌っている80年代のAOR作『Hiding In Myself』を差し出したところ、最高に嫌な顔をして、「新作(『A Song For You』のこと)は買ったのか?」としつこく問いただされたのを思い出す。