/ 30 years young ( BET-TALIS /2004 )
これホントいいなー。実にほほが緩む一枚なのだ。名古屋が生んだウェストコーストを演る実力派バンドであるセンチ。バンドとしての作品のみならず初期竹内まりやのバッキングなど、各々ミュージシャン、スタジオプレイヤーとしての活動も盛んで、彼らを知らずともどこかでその演奏には触れているはず。メンバーは、70年代初頭乱魔堂で活動していた告井延隆に、近年某アコギ雑誌でのギター試奏コーナー担当者としてもお馴染みの中野督夫、そしてキーボードの細井豊という布陣。そう言えば「中古楽器屋」という名前の中古楽器屋で死ぬほど上手いオッサンが延々試奏していて誰だろ?と思って見たら告井だった、という思い出がある。あと本作では山下達郎、大貫妙子を擁したシュガーベイブの元ドラマー野口明彦が叩いているのも見逃せない。ムーンライダースからは武川雅寛が一曲に参加している。
本作は30周年記念盤で、中身は旧作のリメイク。リメイクったって進化してるので相当前向き企画ですよ。M-1”うちわもめ”から分厚いコーラスが飛び出してきてとにかくキラキラした変わらぬあの感触。人懐っこいボーカルも最高。打ち込みがなんだかんだ多くなっている昨今、完璧な生ウェストコーストサウンドはやはり良い!M-2”内海LOVE”はオリジナルよりもボーカルがより深化・洗練されていて実にすばらしいウェストコーストAORナリ。マイク・マクドナルドなんかを思わせすごい完成度ですね。ハーモニカがいい味。M-4”あの娘の窓灯り”やM-7”雨はいつか”は細野晴臣の名盤『Hosono House』っぽくて、誰もが過去を慈しみたくなるような、懐かしい気持ちこみ上げる出来。M-5”ハイウェイソング”もいいですね。ジャグセッション風M-8”おかめとひょっとこ”も楽しい。そしてキマシタという感じがアカペラのM-10”夏の日の思い出(ダンシング・ミュージック)”。これホント泣きました。これ一曲で買って良かったなと思う。アカペラって朗々と歌い上げるのも悪くないんですが、どうも最近の若手のアカペラものは人間味を感じさせず満足できない。リード歌手がニコニコしながら悦に入り、美声にまかせてコレデモカ!って歌っているのがなんとも興ざめするのだ。やっぱり、ファルセットに行くサビの辺りを、バックアップするコーラス隊に支えられながらも、歌えるかどうかギリギリの音域で歌い上げ、震えるほどに沸き立つ伝えられぬ一途な想いを届かせんとするこのセンチのヴァージョンは、良かった。ちなみに2曲だけ入っている新曲はさほど印象的でもないが、30周年を迎えた彼らの想いが伝わる仕上がり。いつか叶うなら生センチを観にいきたいものだ。(最近は元かぐや姫〜風、の伊勢正三と活動を共にしている模様。伊勢は相当サウンド志向の人なので、ボーカルの弱さを除けば期待大。)
ちなみにコレ、インディー盤ですがアマゾンで買える。他にも細野プロデュース(てかSentimental Romantistというクレジットなので一種の後見人ですね。ちなみに、細野さんがトリをとってノンビリ歌ってたものの、観客は大雨で風邪ひきそうになった昨夏狭山のハイドパークフェスティバル、その前日にセンチが出演していた。)の名作1st(1975年)と2nd『ホリデイ』(1976年)+αを含むベスト盤『GOLDEN☆BEST』は買い。あとCDでは『歌さえあればWe Like Music』(1979年)なんかもR-BANで入手可能。1977年のシティAOR名作『シティ・マジック』は密かに再発されたが買い逃していたら最近見かけなくなり悔しい。廃盤ゆえ中古を探すしかないが、1983年の『はっぴいえんど』はその名の通り彼らのルーツであるはっぴいえんどカバー集。タッチは時代もあってか、さすがにデジタル感があるが、愛情を感じる出来。
本盤についてミュージシャンがコメントを寄せているサイトを発見したので参考まで。
http://www.sundayfolk.com/scr/pr/comment.htm