/ Same (Atlantic/Rhino / 2006 ・Originally released in 1969 )
1月にCS&Nの1stと『Daylight Again』がボーナストラック入りHDCD仕様リマスター盤で再発された(まだ輸入盤のみ)。CS&N関連の公式音源は、ソロ・参加作も含めて集めきったつもりだったが、今更ここへ来て買い直すというのもどうかとハタと悩んだ末、まずは1枚だけ、とボーナストラックにつられて食指を伸ばした。リマスターの音にも少々期待して。
さて、とういうことでamazonにて本日到着した本盤だが、ぱっと聴いた印象、少々キンキンしていて、前のデジタルリマスター盤の方が耳に優しいナチュラルな音だった気も。元々オリジナル自体、基本はStills一人でアコギ、エレキ、ベースを演奏していて、宅録っぽい(ちゃんとスタジオで録ってますが)モコモコした音だったから、ギャップもある。モコモコした音に、60年代の不穏な雰囲気がぎゅっと詰まっていたのだから。しかし、まあよく考えてみたら私のオーディオにHDCDデコーダーは内蔵されていないので、16bitでしか再生されない。20bitで再生すればまた違う聞こえ方をするかもしれない。一番気になる冒頭”Judy”のオープンチューニングのアコギの音はさほどクリアになったとも思えなかったが、Stillsのベースの音はプリプリしているし、各楽器・コーラスの分離はとてもいい。ハンドクラップもクリアだ。
意外なのは、捨て曲なしの本盤で一番印象が薄いことで知られる、ナッシュの”Lady of The Island”。こうしたアクースティックな音については、ささやくように歌う艶かしさが伝わってきて悪くない。さらに、クロスビーのハーモニーボーカルが大分前に出てきていて、後のクロスビー&ナッシュの世界により近く聞こえる。こうした歴史の改変を良しと思うか、改悪と思うかは、評価が分かれるところだが、オリジナルLPを持ってさえいれば、マスターテープいじりは音楽愛好者の楽しみでもあろう。続く”Helplessly Hoping”も、イントロから、スティルスの出すノイズがよりくっきり聴き取れるし、3声のボーカルの分離の良さも際立っている。
さて、その他にも聞き込めば色々な違いもありそうだが、ひとまずボーナストラックを聴いてみる。M-11”Do For The Others”は、後にスティルスの名作1stに収録される名曲だが、ここではスティルスのリードボーカルに、上をナッシュが、下をスティルス自身がハーモニーをつけている。まだ煮詰められていない感もあるものの、なかなかに良い。「CSNっぽさ」とは、クロスビーとナッシュのハーモニーというより、粗いスティルスのボーカルの音溝を埋めていく甲高いナッシュのハーモニーにあると思うが、それがよくわかる仕上がり。M-12”Song With No Words”は、後のクロスビーの1stに収録される曲。これは、Deja Vuセッション前の、クロスビー&ナッシュによるヴァージョンだが、4枚組ボックスに収録されていたもののリミックスだろう。この雰囲気の再現を夢見て今も彼らのファンであり続けているが、残念ながらこの時期にしか出来なかったのだと思える、緊張感のある演奏が聴きモノ。A-13”Everybody's Talkin’”はスティルスやクロスビーに多大な影響を与えた男、フレッド・ニールの代表曲をCS&Nで演っている。『Stills Live』や『Stills Alone』でもレコーディングを残しているようにスティルス自身は好んで歌った楽曲だが、CS&Nでコーラスをつけた音は初めて聴いた。フォーク時代のルーツを思い知る。そういえば、クロスビーはNYにて、黒人フォーク歌手のTerry Callierと活動を共にしていたようだが、一体どんな音だったのだろう。ちなみにフレッド・ニールは、Stillsの"Change Partners"やCSN&Yでも披露していたがレコーディングでは出し惜しみしてManassasで発表した"So Begins The Task"なんかでコーラス参加している。A-14”Teach Your Children”の2回目のデモ(1回目はナッシュ独り)は、いつものナッシュのおぼつかないギターが微笑ましく、そこにクロスビーがハーモニーをつけていて、レコードのあの音が既に出来上がっている。サビの節が少し違っていて、ナッシュがポップなメロで声を張り上げるのが、なんだかポップグループ出身の彼らしくおかしい。
最後に、一番驚いたこと。裏ジャケで背後霊のようにドアのガラス越しに写っていたドラムス、Dallas Taylorだが、なんと今回は丁寧に消されていた! やはり不気味だったからだろうか・・・。