/ KID (MUSKRAT RECORDS RATCD-4303 / 1978 )
今も現役の名セッションシンガーがビクターから出した唯一のリーダー作。中古で見かけつつもスルーしてきた盤だが、15日にCD復刻され思わず買ってみたところなんとも素晴らしい盤だった。まず何より音がいい。1978年にしては早い、ロンバケ風な(スペクターサウンドとか言う意味ではなく)エコーが効いてふんわりした音だ。そして、数多のセッションで証明済みの美声はもちろん、全ての作曲を木戸自身が手がけていて、駄曲が極めて少ない(作詞は6曲を荒木とよひさが手がける)のも特筆すべき。これほどアルバム通しで”聴ける”作品は70〜80年代のジャパニーズポップスでは残念ながらそうそうない。
冒頭のM-1”ミスター・ミュージック”はしょっぱなから実に”胸キュン”ポップな感じ。ドラムスは他の大半の曲でも叩いている村上ポン太。サビのファルセットでなぜか斉藤哲夫を思い出した。さりげなくいい気分にさせてくれるメロウなM-2”ジン・ジン・ジン(Zin Zin Zin)”〜M-3”テイク・ア・チャンス(Take A Chance)”の流れは完璧。優しさに溢れたM-4”街は眠り始めて”は初期のアクースティックなアルフィーみたい。なんだか坂崎幸之助のボーカルに似て聴こえる。M-5”君にほのぼの”は”グレープ”吉田正美編曲の一曲で、Breadの”If”が明らかに元ネタ。M-6”長い夜”は芳野藤丸の暑苦しいエレキギターのソロがある意味時代を感じさせるが、サビの展開はAORっぽくて悪くない。M-7”ウインク・アンド・キッス”は羽田健太郎のエレピが渋い洗練された一曲。とてもいい。この曲のサビのコード進行でChicagoの”Saturday in the Park”のAメロが歌えるということが2度聴いてわかった。M-8”ラブ・マジック”は唯一時代を感じさせる歌謡曲タッチの仕上がりでオススメできないが、M-9”エイプリル・フール”なんかはディスコサウンドで熱い。そしてスローでストリングスの入ったバラードM-10”君がそばにいれば”がラストに選ばれている。階段コード進行がスタンダード感を演出する。
通しで35分、安部恭弘なんかを思わせる優しいボーカルに本当に癒される。80年代半ば〜バブル崩壊まで続く日本のシティポップの隠れルーツ的な作品だと思う。以後ライターとしても稲垣潤一らに名曲を残すことになるが、クオリティはデビュー作から全く変わらなかった。そういえば、石川鷹彦のアコースティックギター入門という番組がもう10年近く前になるだろうか、NHK教育テレビで放送されたが、そこで木戸が歌った”あの素晴らしい〜”はとてもヨカッタです。その時から気になっていたが、やっと彼の自演盤に出会えとても感慨深い。