/ Riding a Horse & Holding up the World (DJM records 15 / 1998)
ポップカントリーのテイストに近い70年代のアクースティックサウンドと言うと、惜しくも亡くなってしまったB.W.StevensonやBrewer & Shipley(彼らの”One Toke over The Line”は Stevensonの“My Maria”と共にクリスチャンミュージックの趣き)、それにJonathan Edwardsなんかを思い出す。彼らの諸作にハズレは無い。そのB.W.Stevensonにヒット曲”My Maria”をもたらしたのが今回取り上げるDaniel Mooreだ。60〜70年代はスワンプ畑の裏方としてCarpなんかのプロデュースやJoe Cockerとの活動、自身の名を冠しひっそりとリリースされていたLP『Daniel Moore』で知られ、80年代はKim Carnesのファーストアルバムをプロデュースしたりもしていた彼。1996年にカントリー界のビッグなデュオBrooks & Dunnが”My Maria”を取り上げたことで注目が集まったからか、唐突な1997年のクリスマスアルバムを挟み1998年に発売された新作がコレだ。この親父は正気なのかと問いただしたくなる意味不明のジャケットが苦しい。全くセンスを感じとることが出来ないが、反比例して音の方は最高。
先に言ったようにM-1”My Maria”はB.W.Stevensonの出世作で、Brooks & Dunnもカバーしていた。ポップなアコギのリフがたまらなく良い。ヨーデル風ファルセットやシャウトを使いこなすMooreの声は20年余りの時を経て深化している。たおやかなM-2”Turn Around”もアコギのリフが特徴的。M-3”Jack-A-Diamonds”はWaylon JenningsやB.W.Stevenson、Joe Cockerが70年代にレコーディングしているが、近年のカントリー作品に匹敵する仕上がり。M-4”Cross The Borderline”ではスチールギターが入って本格的なカントリーサウンドを聞かせる。ジミー・ロジャースかというヨーデルも。M-5”Let It Fly”はスティルスチューニングでコーラスが入るCSN風。ゴスペルタッチのM-6”Oregon (Give Me Wings)”では味わい深い歌声にしばし時を忘れる。これ、Dean Parksがベースとギターで参加しているが、70年代の蔵出しではなかろうか。歌声もかつての1stの頃の歌声を髣髴とさせる。M-7”The Wild One”はドライブ感溢れるカントリーロックだが、My Mariaと同様アコギのリフをイントロや間奏に持ってきている辺りがイイ。M-8”Blaze Away”はカッコイイブルーグラス曲。コーラスが決まっている。M-9”The Prettiest Eyes in California”は感傷的なイーグルスといった感じの売れセンのカントリーロック。ファルセットのヨーデルがここでもやはり聴ける。キャッチーなM-10”Suzanne”のお次はB.W.Stevenson 版がヒットせずThree Dog Night版で当たった”Shambala”の自演デモ(もちろん当時の)。ここでもDean Parksがベースを弾いている。しかしいい声。こんなデモ聴かされたら即ヒットを確信するのではないかと思う。ヒットのツボを心得た一曲。ラストM-12”Take Good Care Of Yourself”はカントリーバラードだが、ただのカントリーではなくソウルの味わいを見つけることが出来てなかなか良い。
ちなみに弟Matthew Mooreは、The Beach Boysにしばし在籍していたDavid MarksとMoonを結成していたこともあり、カリブーレーベルから淡いジャケが印象的な『Winged Horses』(1978) ― 音はジャケほどヤワではない ― を含め2枚のソロアルバムを出している。