/ Up Close And Alone ( Hip-O 40067 / 1997 )
アンタ誰、なんて言わないで欲しいご存知The Guess WhoのリードボーカリストのBurton Cummings。私事で恐縮ながら、”American Woman”の映像を見たのがこの人を知るキッカケ。TOTOのBobby Kimballなんかとよく似た落ち着いた風貌で、汗ひとつかかないでソウルフルなシャウトをえんえん続けるBurtonの姿とRandy Bachmanのねちっこいギターソロが忘れられなくて、シングル盤を飛んで買いにいったのを思い出す。このシングル盤の音圧がとにかくまた凄かった。ちなみにB面の”No Sugar Tonight”も実に完成されたポップスだった。この人たち、相当にハードな部分がありながらも、あくまである種ビートルズ的な”ポップロック”の香りが漂うのは、計算されたコンパクトな楽曲と、シャウトすら耳馴染みの良いBurtonのしなやかな歌声によるものではないかと思う。
さて、これなんですが、現時点では最新作となっているBurtonのピアノソロ弾き語りのライブ盤。ピアノ弾き語りということで往年のロックファンは物足りなく思えるかもしれないが、The Guess Who脱退後の、美声と溢れる声量を最大限に生かしたアダルトオリエンテッドなBurtonのソロアルバム群を愛聴してきたファンにはタマラナイ仕上がり。とはいえ、冒頭のロックンロールM-1”Albert Flasher”はじめ、M-6”Laghing”、M-7”Undun”、M-8”Clap For The Wolfman、”M-13”No Sugar Tonight / New Mother Nature”、M-18”These Eyes / Goodnight Everybody”なんていうThe Guess Whoの楽曲では往時に劣らない美声とシャウトを味わえる。イントロだけでも大きな拍手が来るが、期待に応える歌いっぷりにホレボレだ。”These Eyes”なんて久々に聴いてみるとなんていい曲なんだろうと単純に思う。さてそれ以外でも聴きモノは、ソロアルバムでもベストな5に入る見事なバラードM-5”Break It To Me Gently ”とM-9”I Will Play A Rhapsody”か。鍵盤一本ゆえの説得力ある仕上がり。さらにドリーミーなバラードと言えば、David Forman作のノスタルジックなM-17”Dream Of A Child”に止めを刺す。それ以外にも面白いものがある。例えばM-11”Gordon Lightfoot Does Maggie May”は、同郷(カナダ)の大御所Gordon LightfootがもしRod Stewartの名曲を歌ったら、というネタだが、笑っちゃうくらい似ていて実に芸達者ダナと見直す。さらに、リバプールのご当地ソングといった感じになっているM-14”Ferry Cross The Mersey”。これはGerry & The Pacemakersのカバーだが、”’cause this land’s〜”という箇所の”Gerry Marsdenの唐突に甲高い音色が、Burtonのそれとよく似ていることに気づかされた。それを踏まえた上でのカバーだろう。
さて、Burtonのソロアルバムは中古盤ならどこでも手に入るが、集めるのが面倒であればRhinoからのベスト盤がまとまっていて良い。とはいえ3枚目の出来の良いSam & Daveカバー、”Hold On! I’m Comin’”などは、アルバムを買わなければ聴けない。あと、Jimmy Webbが手がけたサントラ『Voices』(1979)で歌っているド迫力のバラード”I Will Always Wait For You”、”On A Stage”も無視できない。『And So:On』も容易に手に入る今、価値を著しく失ったJimmy Webbの海賊盤『Archive Two & Unplugged』にその2曲は収められているが、スクラッチノイズも入っており、素直に『Voices』のLPを探した方が早い。