SSWとしてのJoan Baezのレコードを1枚挙げるならば、シングル中心の60年代前半における神々しいフォーク時代のもの ―そもそも著作権といった商業的概念の対極にあった「フォーク」は、しばしば拝借したトラディショナルのメロディに別の詩を乗せたりし、楽曲が個人の所有物である、という観念から常に自由だった― というよりも、A&Mにおける75年の名作Diamonds& Rustを推したい。本作はそのDiamonds&Rust に次ぐオリジナルアルバムで、Blowin’ Awayの前作にあたり、本作を最後に彼女はA&Mを離れた。プロデュースは前作も手がけていたDavid Kershenbaumなのだが、本作はDean Parks、Duck Dunn、Larry Knechtel、Jim Gordonという布陣を活かしきれていない装飾過多なポップ盤。Gallager& Lyleをはじめアクースティックな音作りに才能を発揮したDavid Kershenbaumが手がけたとは思えない。プロテストフォークの女王と謳われた才能も、過剰なバッキングの前には凡庸な歌手に成り下がってしまうという好例、と言い切りたいところだが、B-4の長編タイトル曲”Gulf Winds”だけは素晴らしい弾き語りの一品。そういえば、The Bandのカバー”The Night They Drove Old Dixie Down ”も同1976年にTV番組Midnight Specialで演じた弾き語りが一番素晴らしかった。Martin 0-45を携えて。