いしうらまさゆき の 愛すべき音楽よ。

音楽雑文家・SSWのブログ

いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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いしうらまさゆき へのお便り、ライブ・原稿のご依頼等はこちらへ↓
markfolky@yahoo.co.jp

2024年5月31日発売、V.A.『シティポップ・トライアングル・フロム・ レディース ー翼の向こう側にー』の選曲・監修・解説を担当しました。
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[NEW!!]2024年3月29日発売、モビー・グレープ『ワウ』、ジェントル・ソウル『ザ・ジェントル・ソウル』の解説を寄稿しました。

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2024年2月23日発売、セイリブ・ピープル『タニエット』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日発売、ロニー・マック『ワム・オブ・ザット・メンフィス・マン!』、ゴリウォッグス『プレ・CCR ハヴ・ユー・エヴァー...?』、グリーンウッド・カウンティ・シンガーズ『ハヴ・ユー・ハード+ティア・ダウン・ザ・ウォールズ』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
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「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
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2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
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2週目 ココをクリック
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坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
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2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
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2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
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2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
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2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
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2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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 追悼トム・ペティ

markrock2017-10-03


トム・ペティが亡くなったとの報。にわかに信じ難くて。だまされた人も多かったウィリー・ネルソン死亡説みたいに、デマであってくれればいいのにと思った。ただでさえウォルター・ベッカーやグレン・キャンベルとか、大好きなミュージシャンの訃報が相次ぐ中で。今月67歳の誕生日を迎える間もなくペティまでもが亡くなくなってしまったなんて…まだ若かったのに。矢野顕子さんのこんなツイートを読んで、本当だったと確信した。


「先ほどツイートしたTom Pettyが亡くなったの報。私がツイートした時点で確実なソースからではなかったので消しましたが、今さっきハートブレイカーズでドラマーを長いことやっていたスティーヴフェロウニから、トム亡くなったよ、と。。。」



矢野顕子の1976年のファースト『Japanese Girl』あがた森魚『日本少年』に呼応したものだと聞いていたけれど、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのセカンド・シングル”American Girl”が念頭にあったのかな、なんて一瞬思って調べてみたけれど、レコーディングされたのは矢野顕子のアルバムの方が4ヶ月くらい早かった。でも同年のデビュー、同期なのでした。

トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのデビュー盤はシェルター・レーベル、デニー・コーデルのプロデュースだから、王道スワンプ・ロックの末席に位置していたことになる。そりゃあ新世代のアメリカン・ロックの牽引役になったわけだ。とはいえ当然ブリティッシュ・インベイジョンも通っていて、サンダークラップ・ニューマンの”Something in the Air”のカバーもハマっていた。だから、トラベリング・ウィルベリーズジョージ・ハリスンと共演できたのは嬉しかったろうな、と思う。ウィルベリーズや、ザ・バンドを超える程の迫力だったハートブレイカーズとの共演ツアーではボブ・ディランの傀儡に思えるくらいで、フォーク・ロックのスタイルを継承する立ち位置も伝わった。ディランといえば、正統ディラン・フォロワーのザ・バーズのロジャー・マッギン自身がペティの”American Girl”をカバーしているんですよね。先輩が後輩にお手本を見せているような奇跡の交歓だと思えたり。1991年の『Into The Great Wide Open』ではロジャーがコーラスでゲスト参加していたり。バーズといえば今年出たばかりのクリス・ヒルマンの新作『Bidin’ My Time』トム・ペティがプロデュースしていたのも記憶に新しかったのに。


個人的には2015年のアルバムに入れた”なんでこんな目にあわなくちゃならないんだ”という曲が「ジェフ・リンがプロデュースしたトム・ペティ・トリビュート」だったのでした。伝わらないマニアックさですみません。リアルタイムでいうと1994年のアメリカーナの先駆のようなソロ大名盤『Wildflowers』、そしてウィルベリーズの続編の趣の1989年の『Full Moon Fever』は特によく聴きました。しゃくりあげるような粘っこい味なボーカルとシンプルだけれど巧みなソングライティングが何と言っても魅力で。『Full Moon Fever』では”Free Fallin’”と”I Won’t Back Down”ですよね。”I Won’t Back Down”は9.11のテロの追悼ライブで歌われ、「オレは打ち負かされない」…ってフレーズがなんか愛国的に聴こえてちょっと物騒に思えたのを思い出す。2014年にイギリスのSSW、サム・スミスが”Stay With Me”を世界的な特大ヒットにしたけれど、明らかに”I Won’t Back Down”のサビと同じメロディでした。


あとは2009年に出た4枚組のハートブレイカーズ時代の48曲入『The Live Anthology』が音も良く、愛聴しました。前身マッドクラッチ時代の音源も含む6枚組ボックス『Playback』も好編集盤で必聴だと思う。『Hard Promises』の1曲目”The Waiting”なんかも初めて聴いたときの感動は忘れられない。リンダ・ロンシュタットのカバーもとても良かった。



うーん、5人のうち右から3人がもうこの世にいないだなんて…

http://www.tompetty.com/

 フォーエバー・ケメ(佐藤公彦)

markrock2017-07-31



フォーク歌手のケメこと佐藤公彦さんが65歳で亡くなったとの報。ヤフーのトップニュースで知ることになるとは…。6月のことだったそうですが、ご遺族を慮って公表はこのタイミングだったとのこと。結構ショックでした。

個人的にはよしだたくろう吉田拓郎)と並ぶエレック・レコードのアイドルという印象。まさにフォーク全盛期の人ですよね。同じくエレック所属だった古井戸の加奈崎芳太郎さんから以前聞いたことがある。地方巡業であるところの「唄の市」で野次られたケメさん、ナヨっとした女性的な印象の方だけれど、結構怒ると凄くて、泣いて大暴れしたらしく、後ろから羽交い絞めにしてステージ袖に連れ帰った…というびっくりのエピソード。



ところで僕のファースト・ミニ・アルバム『蒼い蜜柑』はケメさんがいたピピ&コットの金谷あつしさんのプロデュースだった(同じくエレックの竜とかおるの佐藤龍一さんにアレンジしてもらったりと、愛しのエレックに送るオマージュ盤、のイメージだったのです)。レコーディングの時に金谷さんからケメさんの近況を伺った。その時の話だと、テレビに出るのも金谷さんが一緒じゃないとダメ、という感じらしかった。ニッポン放送の番組・あおい君と佐藤クンで一世を風靡し、フォーク歌手のほとんどがそうだったけれど、1980年代に入って不遇の時代を過ごし、ケメさんのレコードは2009年まで32年も出なかった。泉谷さんとかチャボさんとかチャーといったエレック勢とは対照的に。天国と地獄という感じだったのではないだろうか。2000年代にはMyspaceという音楽サイトで繋がっていたのだけれど(https://myspace.com/satokimihiko)、結局お会いできずじまいだったのは悔やまれてならない。

でも、ライブは観ました。2009年に九段会館でやった唄の市。見かけはおじいちゃんになってしまった印象だったけれど”さみだれ 五月よ くるがよい…”と「通りゃんせ」を歌うその声が、驚くほどに変わらなくて、とても不思議な感じがしたのだった。ケメさんは永遠のアマチュアリズムを持ち続けていたのかもしれない。普通の人なら年を重ねれば失われてしまうイノセンスがそこにはあって。終演後の会場で音楽評論家の長谷川博一さんにお会いしたのだけれど、同じ様なことをおっしゃっていたのも印象に残っている。

好きなアルバムを一枚、と言われると1972年のファースト『ケメ?=午後のふれあい』かな。当時フォーク・ファンは面食らっただろう、目くるめくソフトロック・アレンジによる「ぼくがここに居るからさ」に始まり、アルフィーの坂崎氏がオーディションで歌ったという「メリーゴーランド」、古井戸っぽいフォーキーな「生活」もある(「僕の生活は よろこびの朝ごはんと 悩みの晩ごはん」という歌詞が好きだった)。もちろんヒットした「通りゃんせ」も。



佐渡山豊、生田敬太郎がゲストで加わった1973年の『オンステージ第1集』、シングルヒットした「バイオリンのおけいこ」収録の4枚目『時が示すもの Keme VOL.4』、豪華セッションマンが参加し大塚まさじと歌う「やさしくうたって」も入った1975年の『遠乗りの果てに』なんかもよく聴いた。セカンド『Keme VOL.2 明日天気になあれ』も好きだったんだけど、レコードがどこかへ行ってしまって出て来ない。こういう時に限って、ね。


2009年には32年ぶりのオリジナル・アルバム『ひとりからふたりへ』がリリースされ往年のファンを歓喜させた(レビューは→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20090707)、2010年にはピピ&チョコットwithまじ名義で、ピピ&コットのデビュー・シングルのタイトル(「捨ててはいけないよ 大切なものを」)を思わせるミニ・アルバム『捨ててはいないよ 大切なものを』をリリース。まさにケメさんのイノセンスを言い当てたタイトルだったと思う。その後自主制作盤も次々にリリースし、もうひと花…と期待していただけに、とても、とても、残念に思う。機会があれば、いつかケメさんの曲を歌ってみたいと思う。






 松任谷正隆『夜の旅人』トークショー

markrock2017-07-29



またまた更新がしばらく空いてしまった。それにしても今年はレコがカナリ増えている年。コレクターの人ならわかると思いますが、やばいな〜と思う感じの時ってありますでしょ。やりすぎてるな〜という。80年代もののオリジナル盤の買い直しを始めたのが主な理由。音が良いものもあったので、発見はおいおい紹介していくつもりです。



さて、先日は(横浜でのイベントぶりに)渋谷のパイドパイパー・ハウスに行き、長門さんにご挨拶。たまたま僕のアルバムのジャケット・デザインを担当してくれているSSWのダニエル・クオン君の話になったら、ダニエル君と長門さんはその日にメールでずっとやりとりしていたらしく…そういう有り得ない偶然が面白い。で、ユーミンの夫でもあるマンタこと松任谷正隆さんのトークショーが来週あるからもしよければ…と教えてもらったので、足を運んでみたというわけ。

山下達郎大貫妙子村松邦男らが在籍していたシュガー・ベイブのマネージャーとして、旧パイドパイパー・ハウスでレコードを紹介する店長として、古くからの付き合いだという長門さんが相手だったからこそ、松任谷正隆さんの普段聞けないような70年代の貴重なお話が中心となった1時間あまり。お客さんも沢山。なんと大滝詠一さんが生きていたら69(ロック!)歳の誕生日の日だったのですね(布谷文夫さんのお話も出ましたが)。キャラメル・ママ時代、小坂忠さんのフォージョーハーフ時代のエピソードが楽しかった。能古島で行なわれたウッドストックの様な野外イベント、ピアノが無くてエレクトーンしかなかった、とか、夜とっても臭う”あるもの”の上で寝てしまい泣きながらシャツを洗った…とか凄まじいエピソードも。はっぴいえんどは免許取りたての長門さん運転の自動車で遅れて到着したとか、そんな話を昨日のことのように。

ユーミンの詩・ジャケットイラスト、松任谷正隆の唄・作編曲による1977年の唯一のソロアルバム『夜の旅人』、以前はご本人、再発を望んでいなかったそう。でも大貫さんと数日前のライブで「荒涼」など2曲を演ったとのことで、やっと客観的に受け入れられる作品になったのかも。なんと待望のソロ新作(2作目)のプリプロも始まっていて、2曲は素材が出来上がっているとのことだから、こちらも楽しみ。



僕は『夜の旅人』を90年代のCD再発で初めて買って、2015年の長門さんが手がけた再発(ご本人はバーニー・グランドマンのリマスターを希望したけれど、予算面で叶わなかったとのこと、しかし素晴らしい音!)も今回手に入れた。「日本のニック・デカロ」というのは結構当たっている位置づけだと思うけれど、当時ニックは本人の意識になかったみたい。自分みたいな音楽オタクになってしまうと、分析的に聞くのがクセになっているから、「何々の影響で…」などと言いたがるのだけれど、たいがいミュージシャンに話を聞くと、結構感覚的に他人の音楽を吸収しているからか、他人からの影響は意識上になかったりする。あとはどうしても同じ方向を向いてしまう時代的共振というものもあるだろうし。ただ、フルムーン(伊藤銀次さんから教えてもらったとか)やオハイオ・ノックス(カラミティ・ジェーンをかけていた)などは音楽的ルーツを明言しつつ曲をかけていたのが興味深かった。『夜の旅人』を聴いていると、1曲目はグレン・キャンベル/ジミー・ウェッブのウィチタ・ラインマンのアウトロ風だったりと、当時の洋楽受容の様相がわかる。それしてもユーミンの大衆性を支えた絶妙なバランス感覚はすごい。正隆さんは吉田拓郎とかもやっていたわけですから。日本人のツボみたいなものを心得つつも、洗練された音楽を演っていたのだと思う。

そう、影響といえば来日中の元セクションのギタリスト、ダニー・コーチマーがふらっとサプライズ登場して。はじめ、店内をうろちょろしているお爺さんがいて、誰かいな、と思っていたんですが、まさか。正隆さんはジョー・ママが好きだったそう(アティテューズは知らないと言っていた)。そういえば出たばかりのキャロル・キングの新作『つづれおり:ライヴ・アット・ハイド・パークにもダニーが参加している。

店内には正隆さんのCDの隣にMonchicon! 清水祐也くん監修の『Folk Roots, New Routes フォークのルーツへ、新しいルートで』シンコー・ミュージック・ムック)がディスプレイされていた。私もレビューを書かせてもらったムック。本書に収録されているインタビュー中に書かれた細野晴臣&デヴェンドラ・バンハートのサインも!とにかく素敵な空間、理想のレコ屋です。

 Folk Roots, New Routes フォークのルーツへ、新しいルートで

markrock2017-06-19


Monchicon! 清水祐也監修の『Folk Roots, New Routes フォークのルーツへ、新しいルートで』シンコー・ミュージック・ムック)がお店に並び始めた。私も日本のフォーク中心(あとはディノ・ヴァレンティなど)にレビューを書かせてもらっている。目印となる表紙はノンサッチから新作『CRACK-UP』をリリース直後のフリート・フォクシーズ(http://fleetfoxes.co/crack-up)。新作には「大台ケ原(ODAIGAHARA)」なんていう日本の地名を冠した曲もあったり、私自身謎解きのように聴いていたものだから、巻頭のインタビューで200%理解が深まった(元ドラマーのファーザー・ジョン・ミスティのインタビューもある!)。リリース元のノンサッチといえば、かつてはフォークや民族音楽で有名やエレクトラ傘下、現在はワーナー傘下で在りし日のバーバンク美学が継承されているレーベルだ。なんとMonchicon!(モンチコン)にはノンサッチ社長のインタビューが掲載されていた(http://monchicon.jugem.jp/?eid=2174)。

そう、『Folk Roots, New Routes フォークのルーツへ、新しいルートで』を監修した清水祐也くんが手がけているMonchicon!(モンチコン)(http://monchicon.jugem.jp/)はその界隈で知らぬ者はいない国内屈指のインディーロック情報サイト。2012年にDU BOOKSから『モンチコンのインディー・ロック・グラフィティ―The First Annual Report Of Monchicon』、2014年・2015年にシンコー・ミュージックからCROSSBEAT Presents CON-TEXT』 Vol.1とVol2が出版されているけれど、そのいずれも音楽・映画を始めとした幅広いサブカルチャーの知識がミュージシャンの脳内と共振するようなつくりになっている。



今回の『Folk Roots, New Routes フォークのルーツへ、新しいルートで』はご存知デイヴィ・グレアム&シャーリー・コリンズ1965年の名盤から採られたもの。現代の新世代のフォークと1960〜70年代の手垢のついたフォークを断絶させていたのは単にファンの意識だったのかもしれない。驚くほどに新世代のフォーク・ミュージックとかつてのフォーク・ミュージックとが繋がっているとわかる…50数年前のデイヴィ&シャーリー盤のタイトルがそれを雄弁に語り、今も私たちを新しい境地へといざなってくれるなんて…素敵じゃないか!

日本のポピュラー・ミュージックに造詣が深く、(ホソノをレスペクトする)デヴェンドラ・バンハートと細野晴臣の予定調和を拒むような対談(最高!)も収録されていて。それにしても大きな物語が機能していた1950〜90年代頃まで、日本のポピュラー・ミュージックは常にアメリカやイギリスを参照枠とし、そこにいかに早く接近しコピーできるかどうかに「ホンモノ」としての価値があった。しかし21世紀に入り、今度はアメリカやイギリスの若者が、日本というフィルターを介した(憧れの)米英音楽表象を面白がるようになっていて。この「ホンモノ」の転倒劇、「時代が一回りした」と簡単に言えるものでもないのですが。

その意味でいうと、誌面でも紹介されているように、10月に米シアトルのレーベルLight In The Atticからリリースされる70年代日本のフォークのコンピレーション『Even A Tree Can Shed Tears: Japanese Folk & Rock 1969-1973』(https://lightintheattic.net/releases/3178-even-a-tree-can-shed-tears-japanese-folk-rock-1969-1973)なんてのは抜群に面白いセンス。灯台下暗しのような再発見も、音楽の楽しみのひとつだと思う。

 ディランと、禅と

markrock2017-04-19




先日書いた佐藤龍一(龍)さんのレビュー&ディスコグラフィー。龍さんのフォロワーの方々が沢山リツイートしてくれたりで、いつになく物凄く読まれていてビックリした。流石龍さんだな〜と。先日の龍さんのライブにはタイ在住のミッキー・カーチスさんが遊びに来たとかで、そのツーショットも何とも渋かった。

さて、ディランの新譜『Triplicate』がやっと注文していたドイツから到着。発売からしばらく経ってしまったけれど…ただ最近は早く聴く、なんてことに余り関心がなくなってしまった。世の中のスピードが速すぎるから。なんか情報が多過ぎて鬱陶しいですよね。情報収集が億劫になると、面倒だから安上がりなメディアに頼りますでしょ、そうなると人々の思想は画一化してきてしまう。そうした傾向は、ここ数年でよりひどくなっているような印象があって。たぶん、人間そのものの定義が変容してきているんだと私は思っています。気付かないうちに脳にチップ埋められちゃってるんじゃないか、という(笑)。といいますのも、最近誰が書く文章を読んでも心が揺さぶられない。私が今書いてる文章なんかもその典型かもしれないけれど。インターネットの記事は特にそうかな。何の商売のための文章か深読みする方がまだ面白い、という。心揺さぶられない理由をちょっと考えてみると、何やら、私が考える人間本性に到達していない感じがしてしまうからで。よくある誰かの気の利いたストーリーとしてケーハクに消費されているといいますか。そもそも人間ってカナリ複雑でよくわからないものだと思うんですよね。でも、わからないと気持ちが悪いからなのか、考えてもわからない人間に貴重な時間を使いたくないからなのか、人間自体がすごくわかりやすくなってきている。端的に言って「変な人」が減っている、という。

前置きが長くなったけれど、私にとっての「変な人」代表は「ボブ・ディラン」その人。うーん、私にとっては一番好きなミュージシャンだから、「変な人」だなんて言いたくはないけれど(笑)ノーベル文学賞受賞を拒否したっていうニュースが当初あったじゃないですか。実際は拒否っていうより沈黙を貫いただけなんだけれど、このニュースに対するメディアや世間の反応を見たとき、やばいな、と思ったんです。「ノーベル賞をあげるって言うのに、なぜ貰わないのか」っていうムード。もらわない「変な人」は受け容れられない…わからないものに出会って、戸惑って、それを好意的に受け取る余裕がない…そんな画一的・全体主義的ニュアンスを感じたんですよね。トリックスター的「変な人」を理解する術をもはや失ってしまったんでしょうか。あるいは、ディラン受賞おめでとう!みたいな単なる賛美が一方にはあって。どうおめでたいのか、誰も説明できない。実際「風に吹かれて」しか聞いたことない、みたいな。おいおい…文学や学問、芸術が消える時代ってこんなものなんでしょうか?批評不在の時代とはかくも…

人間に与えられた言葉を、もっと豊かに使わないといけないと思う。このディランのアメリカン・スタンダード集の新作(通算38作目)は「3枚組」そして「30曲」。アメリカン・スタンダード集としても「3枚目」。それぞれのディスクのタイトルは「’TIL THE SUN GOES DOWN」「DEVIL DOLLS」「COMIN’ HOME LATE」。だからタイトルは「3枚組」という意味の『Triplicate』。すさまじいボリュームだけれど、ディランが詩・言葉を大切に歌っていることが伝わってくる。ポピュラー音楽は詩とメロディと、シンガーとミュージシャン、ミックス、ジャケット…といった総合芸術なのだった。やっぱりこうじゃなくっちゃ、という。そしてディランの歌は、どうしちゃったの、というくらいに上手すぎるでしょう。『ジャズ詩大全』なんか読むとわかるけれど、スタンダードの詩って、メロディとのマッチングも含めて時代を超えた普遍性がある。俳句に近い、行間を読ませるような、必要最低限のラインで、想像力の余地を残している。一般的にいってジャズ・シンガーって上手すぎるから、ややもすると、歌詞の微妙でブルーな感情を、明るく歌い飛ばしちゃう所がある。その辺のニュアンスをディランはじっくり歌い込んでいて。”As Times Goes By”とか”Day In, Day Out””Sentimental Journey””The Best Is Yet To Come””Stardust”…なんていう「ド」が付くほどのスタンダードではあるけれど、ディラン流の解釈があるから全くもって飽きることがない。輸入LPで入手したけれど、ダウンロード・カード付きで、180gアナログの音はとにかく太くて、凄くよかった。ギターにディーン・パークスが加わっているのもちょっと新鮮なような。ミックスはアル・シュミットで、プロデュースは自身の変名ジャック・フロスト。

自作の新曲が聴きたかった…と考えておられるファンもいるかもしれないけれど、もはやそういう境地ではないとも思う。自作曲にミュージシャン個人の思いが篭められているはず…という私小説的、ある意味近代的なポピュラー音楽のあり方を意図的にズラしていることを読み取って欲しい。というか、あらゆる定義をズラすのがディランだから。これって、私の解釈だと禅的なんですよね。ディランのインタビューは禅の公案集を読んでいる感じ。「答えは風に吹かれている」なんてのも、「外にいる風を掴まえてこい」なんていう公案みたいですよね。今回の『Triplicate』だって、他人の曲、自分の曲なんていう分別はなく、私も世界も、あなたとディラン、シナトラ…などという対立のない、ほぼ悟りの境地にたゆたうような感じで。ずーっと一つの音楽を聴いていると、誰の音楽を聴いていたのかわからなくなる瞬間ってありますよね。これこそが音楽と自分が溶け合い、自分が音楽そのものになりきる、無分別の悟りの境地に近いような。この『Triplicate』にはそんな気持ちになれる瞬間が幾度もある。かといってそんな気持ちになろう、と思って聴いてはいけないんですが。

LP1:‘Til The Sun Goes Down:
01 I Guess I’ll Have to Change My Plans
02 September of My Years
03 I Could Have Told You
04 Once Upon a Time
05 Stormy Weather
06 This Nearly Was Mine
07 That Old Feeling
08 It Gets Lonely Early
09 My One and Only Love
10 Trade Winds

LP2:Devil Dolls:
01 Braggin’
02 As Time Goes By
03 Imagination
04 How Deep Is the Ocean
05 P.S. I Love You
06 The Best Is Yet to Come
07 But Beautiful
08 Here’s That Rainy Day
09 Where Is the One
10 There’s a Flaw in My Flue

LP3:Comin’ Home Late:
01 Day In, Day Out
02 I Couldn’t Sleep a Wink Last Night
03 Sentimental Journey
04 Somewhere Along the Way
05 When the World Was Young
06 These Foolish Things
07 You Go to My Head
08 Stardust
09 It’s Funny to Everyone But Me
10 Why Was I Born

 佐藤龍一(龍)さんのニュー・アルバム『LEGACY OF LOVE』

markrock2017-04-09



エレック・レコード所属・元「竜とかおる」の…という枕詞でいまだに紹介してしまうのも申し訳ないのだけれど、佐藤龍一さんの3月20日発売のニュー・アルバム『LEGACY OF LOVE』が到着!何度も聴き返しているけれど、好楽曲・好アレンジで綴られた渾身の力作だと思う。個人的には「ミュージシャンは老いてなお進化し続ける」ことを実証する現役先輩ミュージシャンとして尊敬している。全力で歌い、弾きまくるライブは一見の価値がある。その龍さんといえば、近年はツイッターのフォロワーなんと5万4000人!私も昨年たまたま会った20歳くらいのデザイナーの女性の方が何気にフォローしていると何かの話でわかったりして。ミュージシャンとして、というだけではなく、現役クリエイターとして刺激を受ける言葉の数々が散りばめられているからだろう。また最近では、戦争体験者でいらっしゃった御実父を94歳で亡くされ、入院されてからのそのドキュメントを多くの方が見守っていた。さらに葬儀では御父上の好きだった江差追分をかけようとしたら止められた…というJASRAC関連の問題がメディアの多方面で取り上げられ、話題になった。

個人的には2011年に元ピピ&コットの金谷あつしさんのプロデュースで出したファースト・アルバム『蒼い蜜柑』の1曲目”パノラマ”と、4曲目の”真実”を龍さんにアレンジして頂いたのが忘れられない。デビュー盤の1曲目ですからね。今でもこのアルバムの1曲目のイントロが好きだと言って貰えるのは龍さんのお蔭です。クラプトン!と思ってしまったぐらい艶かしいエレキ・ギターのソロも最高で。ギターやベース・打ち込みまで、マルチな才能をもっていらっしゃる。歌入れレコーディングの日には生でブルースハープを入れてもらったのも思い出です。

さて、この『LEGACY OF LOVE』は自身のレーベルMIOTRON RECORDSからの初リリース。1990年頃にNYのジャズ・クラブ"VILLAGE GATE"で、演奏を聴きながら紙ナプキンに走り描きされたというジャケのイラストがとても良い。予約特典にはポストカードとバッジも付いていた。

今のところ、流通はあえてしておられないとのことで、ライブ会場あるいはホームページから購入可能になっている(http://seesaawiki.jp/w/miotron/)。全12曲で、ライブの弾き語り風味もありつつ、バンド・サウンドによる迫力あるアレンジが聴きものだ(龍さん自身の演奏に加え、安井歩氏がベース・キーボードなどで参加している)。ライブでの人気曲で、自伝的内容の”なけなしのジョニーのくせに”はブルージーなアコギの弾き語りとみせかけて、レゲエ・アレンジで初っ端からぶっ飛んでしまう。”愛っていったいなんなの”はギターの上手さも光っていて。アンビヴァレントな恋愛感情を歌った”嫌いになりたい”は往年のフォーク・サウンドで落ち着く。好きですね。”青空ファンク”は前作『LOST&FOUND』の”ファンキートレイン”を髣髴とさせつつ。龍さん・生田敬太郎さん・とみたいちろうさんはエレックのファンキー三勇士だと思っています(笑)。龍さんのブルージー感覚で言えば、チャー&金子マリがいたスモーキー・メディスンのレパートリーで龍さん作詞・作曲の”R&R列車(ロックンロール・トレイン)”も忘れてはいけません。龍さんとアマチュア時代にバンドを組んでいた、とみたいちろう(現Mojo)の1976年作『STEP TO MY WAY』にはとみた&龍の共作とともに、この“R&R列車”(バックはスモーキー・メディスン)が収められている。ところで、とみたいちろうさんは”俺とおまえと大五郎””パッ!とさいでりあ””セガサターン、シロ”といったCMソングや私の世代だと戦隊モノ科学戦隊ダイナマンでもお馴染み。

しかし、龍さんといえばデビューの時から才能を買われていた「詩」がいつも印象にあるのだけれど、このアルバムの詩に充満するのはやはり「愛」かな。何しろタイトルは「愛の遺産」。失ってから、時間・空間的そして精神的距離を取って、生きていて初めて気付く愛の相貌。つかめそうでつかめないものなんだけれど…それは龍さんの亡くなられた御両親や奥様のことももちろんあると思うけれど、そうした個人的な経験を超えたところにある愛の普遍性に打たれてしまった。「ひとは何故に生まれ 愛しあうのだろうか 永遠のその果てに 何を見るのだろうか」(”還らざる河”)…龍さんの地点に達していてさえも、見ることができないものを、僕みたいな青二才が捉えられるわけがない。それでも”百億年の夢”にある「逝かないで どうか生き延びて」からは、生の肯定的なメッセージを受け取ることができた。始めの話に戻るけれど、「ミュージシャンは老いてなお進化し続ける」ことを実証する龍さんの生き様に、生きることの素晴らしさを感じずにはいられない。



さて今度は、龍さんのキャリアを辿っていこう。1972年、キャニオンレコードから伊藤薫とのデュオ「龍+1」名義の「オニオニ島失踪事件の唄/競馬場のある街はずれに」でデビュー。グラム・フォーク風なファッション!コミック・ソングのタッチでありつつ、ロック・マインドがそこかしこにあるのが龍さんらしくて面白い。2011年の編集盤『エレック ゴールデン☆ベスト〜コミックセレクション〜』で聴くことができる。


その後、「竜とかおる」と改名し、1974年にエレックレコードよりアルバム『ひとつのめぐり逢い』をリリース。エレックというと「フォーク」という範疇で決めてかかってしまうけれど、”その頃の僕”などにはソフト・ロックのテイストがあって、ドリーミーで独特の美学が感じられる。そしてLPで聴くとレコーディングの音の良さもわかる。龍さんの詩と伊藤薫さんの楽曲のコンビネーションは見事だった。伊藤薫さんの女性的なハイトーン(実は初めて聴いたとき女性だと思い込んでいた)と、震えるような龍さんのボーカルにも個性がある。”ちぎれそうな声で”や”流れ星の伝説”は名曲。シングル・オンリーの楽曲では1974年の「エミリア」がある。



1974年にデュオが解散すると、1975年に「龍」名義のソロ・アルバム『あわせ鏡』をエレックレコード(TOYBOX)よりリリース。” ちぎれそうな声で”の再演もあり、力強い弾き語りが堪能できる。ライナーでは永島慎二の文と絵が印象的。永島慎二『フーテン』は私も大好きです。10分に及ぶタイトル曲が白眉。後の短歌絶叫・福島泰樹さんとのコラボを思わせる世界観が既に完成している。


1975年にはモデルのエルザのトリオからリリースされた『Half & Half』にスーパーバイザーとして参加(裏ジャケに龍さんのメッセージあり)。”唄は私の小さな人生”の詩・アレンジ・唄、真理アンヌ作詩の”父よ”ではギター一本の伴奏を務めている。このアルバムは荒木和作&やまだあきらやダッチャ、かんせつかずとか、トリオ・ショーボートものが再発されたときに、そのセンスの良さで話題になったフィーメール・ボーカル盤。エルザの事務所ゲドリック商会に龍さんと薫さん、三上寛さんがいたみたいで、一緒にツアーもやっていたそう。結構強烈な組み合わせ。どんなライブだったんだろう。ライブ音源の”唄は私の小さな人生”で想像してみたり。


さらに1976年には短歌・現代詩とのセッションが始まり、東京キッドブラザーズのミュージカル『ひとつの同じドア』の音楽を手がけている。さらに、四人囃子の茂木由多加のプロデュースでSCANDALをリリース予定だったがオクラ入りし…その後世界30ヶ国を放浪。日本では失踪の噂が流れたという…。いやはやこの辺りの話がスゴイですね。ところで茂木由多加のプロデュースのSCANDAL、いつかどこかで再発できないものなんでしょうか。1976年のシングル『最後のジルバ/夕焼け事件』でその一端を聴くことは可能。

それにしても、”最後のジルバ”では歌詞に合わせて高速チャールストンになったり、ジャズになったり…というめくるめくキーボード・アレンジにただただ驚くばかり。日本のフォークとロックの力関係が逆転する端境期が私の見立てでは1978年。ギターと鍵盤の力関係と言い換えてもいいんだけれど。だから、1976年でこの音は先を行き過ぎている。茂木由多加さんという人は本当に天才だったんだろう。そしてまた、このアルバムがリリースされていたならば、龍さんのキャリアもまた違ったものとなっていたのではないだろうか。ちなみに1978年にキティからリリースされた茂木由多加さんのソロ・アルバム『デジタル・ミステリー・ツアー』はA面にビートルズ『Magical Mystery Tour』のA面の”I Am the Walrus”以外の5曲を当時最新のキーボード・サウンドでカバーしているという異色作。


あと、短歌・現代詩とのコラボレートで言うと、短歌絶叫の福島泰樹さんとのコラボはとりわけ阿吽の呼吸が凄まじい。吉祥寺・曼荼羅では長らく短歌絶叫ライブをやっておられる。龍さんの情感を帯びたアコギと福島さんから吐き出される現代詩が絡み合う様はかなりアヴァンギャルドだと思う。1982年に砂子屋書房からリリースされた『曇天』は「福島泰樹+龍」名義。ライブの緊張感がそのまま詰め込まれている。龍さんの力強いボーカルが映える”バリケード”は特に印象深い。あの時代の想いも感じつつ。CDでは1996年『転調哀傷歌』もよく聴いた。




そして2008年、32年ぶりにリリースされたソロ・アルバムが前作『LOST & FOUND』(SOUNDforte)だった。近年の旺盛なライブ活動から今回の新作に繋がる現在の佐藤龍一の音楽が詰まっている好盤。


ちなみに、竜とかおる時代の盟友・伊藤薫さんは欧陽菲菲の”ラヴ・イズ・オーヴァー”を作詩・作曲し、人気作曲家となった。谷村新司もカバーした”Too Far Away”や自身の”君への道”など、バラードの美しさは秀逸。TOYBOXからリリースされた1976年の『アルバム―かおる―』は未CD化だが、バイバイ・セッション・バンド〜一風堂土屋昌巳がアレンジを手がけていた。


その頃のとみたいちろうのシングル『ハイエナデキシーブルース/さよならマギー』土屋昌巳アレンジだった(”さよならマギー”は龍さんの詩)。その他、1986年に『君への道』、1994年に『少年へ…』をリリース。



2013年には松原健之とのデュエット・シングル『悲しみの雨/秋の手紙』がリリースされ、翌2014年には歌謡曲のソングライターとして作った楽曲(”ラヴ・イズ・オーヴァー”含む)のセルフカバー盤『SHADOWS〜今残したい伊藤薫の10曲』をリリースした。そうなると、ファンとして期待したいのは再結成ですよね。オフコースやふきのとうもファンの気持ちは同じだと思うけれど。だって、あの古井戸(加奈崎芳太郎さん&チャボさん)だってまさかの再会ライブがあったじゃないですか!そんなことも、頑張って日々を生きていれば、いつの日か、あるんじゃないかと期待しつつ…。

 加川良、教訓Ⅰを聴きながら…

markrock2017-04-06



いやはや、また更新が空いてしまった。なんだかんだ一年がかりになっているけれど、哲学関係の本を作っている。9割は書けたのだけれど、あと1割に意外と時間がかかっている。この辺は音楽制作と同じでキリがないから、どこかであきらめて作業を止めなければいけないのだけど。あとは予定通り出せるかどうか…という不安もありつつ。



そんなこんなで音楽を聴いていないわけでは全くないけれど、暖房のないレコ部屋も過ごしやすくなってきて、レコードを聴く時間も増えてきた。3月末には吉祥寺にHMVレコードストアがオープンしたり。面白いですね。こんな時代にLPを聴こうとする人はしっかりいて。90〜00年代のDJブームに産湯を浸かった30〜40代に加え、10〜20代のお客さんも結構いたのがなんだか嬉しかった。90年代には中古レコ屋でレコをトントン落として、「レコードの扱いがなってない!」とか怒っているリアルタイムのアナログ・ファンが沢山いたけれど、そのレコードトントンの人達がカムバックして、今アナログ人気を盛り上げているんですから、そんなに目くじら立てちゃいけないってことです。流石に今はトントンやってる人いませんでした(笑)。

で、加川良さん。闘病中との噂は聞いていたけれど69歳、早すぎる。昨日はショックを受けました。大きく言って団塊チルドレンの私にとっては「フォークの父」が亡くなったような…高田渡さんの時もショックだったけれど。吉田拓郎が1971年の中津川フォーク・ジャンボリーの”人間なんて”で岡林からお株を奪った頃、吉田拓郎加川良はフォークの二大アイドルだったわけで。



URCやエレックからスター達はメジャーに吸収されていったわけだけれど、ソニーに行って後にフォーライフを作った吉田拓郎加川良は対照的だったような気もする。でもどちらもロックをルーツに持っていた(加川良はGSをやっていたと何かで聞いたような)せいか、単なるフォークの枠に囚われない音楽性が魅力だった。そういえば吉田拓郎『元気です』収録の”加川良の手紙”の一節「あの日、君が…ホワイトジーンなら もっと、かっこよかったと思います」も印象的だった。ぼくはこれを初めて聞いたとき加川良を知らなかったから、どんな人か想像をたくましくしたりして。

URC『教訓』(1971年)、『親愛なるQに捧ぐ』(1972年)、『やぁ。』(1973年)の初期3枚は死ぬほど良かった。2枚位持っていても良い位に思えました(笑)。


”下宿屋”、”伝道”、”流行歌”とかね。それでもやっぱり”教訓Ⅰ”かな。なぎら健壱の”教訓Ⅱ”じゃないですよ。この”教訓Ⅰ”はむかし吉祥寺のライブハウスで、フォーク歌手の松田亜世くんと、ギター・バンジョー抱えて一緒に歌った思い出も。”教訓Ⅰ”は、CDではカットされている”働らくな”が収録されたLP『教訓』で聴かなきゃいけません。はっぴいえんども加わっていて、頭からシッポまで嫌いなところを探す方が難しい好盤。


ベルウッド時代の『アウト・オブ・マインド』(1974年)には吉田拓郎の強姦冤罪事件のドキュメント、”2分間のバラッド”があり、テイチクのブラックレコードから出した『駒沢あたりで』(1978年)はレイジーヒップのバッキングで南部サウンドを聴かせてくれた。”女の証し”が凄いんだよね。中島みゆきも愛聴したという女言葉の名曲。


ブラックレコードから出た南行きハイウェイ』(1976年)も石田長生プロデュースの良いアルバムだった。あとは、小椋佳と共作した東京キッドブラザーズ『十月の黄昏の国』(1975年)とか、80年代にはNEWSレコードから『プロポーズ』(1981年)、ベルウッドから村上律とのデュオ・ライブ盤『A LIVE.』(1983年)があったり。




90年代は個人的にはリアルタイムになるんですが、やっぱり1996年のRYO KAGAWA WITH TE-CHILI名義の『ROCK』ですよね。コレには衝撃を受けました。藤井裕、有山じゅんじ、ロジャーという面々でロックバンドを組んで、”戦争しましょう””教訓Ⅰ””伝道””女の証し”など過去の名曲をグランジ風ロック・サウンドをバックに、神懸かりのようなボーカルで聴かせてくれる。ハードなバカでかい音に全く負けない加川良のボーカルって一体なんなんだろうと思ってしまいました。コレ、今こそ再評価されるべきでは?フォークファンも挑戦して欲しい一枚。1993年の『2』というのも遡って買いました。


下北沢のラ・カーニャ斉藤哲夫さんとの対バンを見たのも忘れられない。”ビール・ストリート”とか歌ってくれたような。生で聴けば、レコードやCD以上に味のあるボーカルで。そのボーカルは、思いの篭った言葉を伝えるためにあるんだと思いました。故・岡本おさみさんのトリビュート盤で歌っていた細野晴臣作曲の”ウイスキー色の街で”を聴いた時も、本当に歌の上手い人だと感じたけれど。

ペダルスチールのすぎの暢さんと加川良さんのアコギのステージも素晴らしかった。すぎの暢さんのペダルスチールの音は、それこそサニー・ランドレスのギターみたいな音圧で。『ユーズド・エンド』というライブ盤も良く聴きました。サイトでCD買ったら、加川良さんの字で宛名が書かれていました。


思い出せば思い出すほど、聴けば聴くほど…ですが、加川良さんが歌っていたことを思い出しながら…。



「悲しいときにゃ、悲しみなさい、気にすることじゃ ありません」(『伝道』)