*[コラム] フォーエヴァー、中野督夫さん
名古屋発センチメンタル・シティ・ロマンス(センチ)の中野督夫さんが亡くなられたとの悲報。くも膜下で2018年に倒れてから、その復活を心から願っていたのだけれど。血の通ったホンモノのミュージシャン、バンドマンがまた一人いなくなってしまった。訃報のネットニュースを見ると、記事も大方のコメントも幾つかはとぼけていて、悲しいけれどいつになっても文化の裾野が広がらない国なんだなと思ったりもした。変な譬えだけれどドゥービー・ブラザーズはマイケル・マクドナルドだと思っていてパット・シモンズは知らない的な。
細野晴臣が後押ししたファースト『センチメンタル・シティ・ロマンス』を聴いた時の衝撃は大きかった。彼らの象徴のようなツアー・バスの印象的なジャケット。私の世代は1990年代のCD選書の再発盤ですね。乱魔堂出身の告井延隆とのドライヴィンなツインギター(20年位前に新大久保の中古ギター屋で試奏で死ぬほど上手いアコギを弾いている人がいて、思わず覗き込んだら告井さんだった、ということが)、日本でウェストコーストのカラッとした音を出せるバンドは後にも先にも…実に普遍的な音楽を生み出せている名盤。しかもLPは輸入盤によくある縁のしぼりまで再現していて、こうした良い意味でのこだわりが堪らない。てなことで今だに週1くらいでセンチのレコード聴いている(コレはホント)。『HOLIDAY』『歌さえあれば』『CITY MAGIC』『はっぴいえんど』、そして今世紀だと2004年のリメイク『30 years young』と2011年の『やっとかめ』(レビュー→https://markrock.hatenablog.com/entry/20111017/1318878334)が特に好き。夏のこの時期、延々と流していたくなる音楽。”歌さえあれば”は、不肖わたくしも2枚目のアルバム『愛すべき音楽よ』の中で同名異曲を作り、オマージュ収録いたしました。
セッションでは竹内まりやの初期ウェストコースト・サウンドをセンチがバッキングしていたのは有名。中野さんは『ナイアガラ・トライアングルVOL.1』の山下達郎”フライング・キッド”でもギターを弾いている(そういえばこの曲、浜崎貴司のバンド「フライング・キッズ」の由来でしたね)。中野さんのルーツの一つはジェイムス・テイラーだから、はっぴいえんど(センチはカバー・アルバム『はっぴいえんど』も出している)系とは当然接点が。シュガー・ベイブのドラマー野口明彦はセンチのドラマーになったし。そうそう、このジェイムス・テイラーという人も、日本ではもちろん音楽ファンには有名だけれど、イーグルス”ホテル・カリフォルニア”とまでは市井で有名にならない。シングル・ヒットしたのも自作ですらない”君の友だち”(キャロル・キング作)。この辺の感覚が冒頭に書いたコメントのとぼけ感につながるのだろう。
中野督夫ソロだと1997年の『くつろぎ』と2003年の『夕方フレンド』。ほぼメンバーも参加してセンチってな感じなんですが。後者には豊橋のSSW金藤カズ(これ、最近LPを手に入れたけれど、音楽評論家の小川真一さんがプレイヤー参加していた!)や、増田俊郎、いとうたかお との共作もある。永井ルイ、湯川トーベンらとの2010年のフォークロックス『フォークロックス』というのも素晴らしい作品だった。
10年前に小坂忠・鈴木茂・中野督夫との完熟トリオ(これは中野さんのルーツを形成していると思えたお二人との豪華共演だった。ライブレビュー→https://markrock.hatenablog.com/entry/20110213/1297613954)に行った時のこと。中野さんにサインをもらおうかと思ったら、マネージャー風のガラの悪い人が「CD買わなきゃダメ!」みたいなことを言い出して。もうCD全部持ってるよ、とか思いましたけれども(笑)そしたら優しい中野さんが「もちろんいいよォ~」と言って椅子に座って話しながらサインしてくれたんですね。そんな日が昨日のことのように思い出される。今後とも週1でセンチのレコードを聴きますね。