いしうらまさゆき の 愛すべき音楽よ。

音楽雑文家・SSWのブログ

いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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いしうらまさゆき へのお便り、ライブ・原稿のご依頼等はこちらへ↓
markfolky@yahoo.co.jp

2024年5月31日発売、V.A.『シティポップ・トライアングル・フロム・ レディース ー翼の向こう側にー』の選曲・監修・解説を担当しました。
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[NEW!!]2024年3月29日発売、モビー・グレープ『ワウ』、ジェントル・ソウル『ザ・ジェントル・ソウル』の解説を寄稿しました。

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2024年2月23日発売、セイリブ・ピープル『タニエット』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日発売、ロニー・マック『ワム・オブ・ザット・メンフィス・マン!』、ゴリウォッグス『プレ・CCR ハヴ・ユー・エヴァー...?』、グリーンウッド・カウンティ・シンガーズ『ハヴ・ユー・ハード+ティア・ダウン・ザ・ウォールズ』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
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「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
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2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
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2週目 ココをクリック
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坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
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2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
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2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
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2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
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2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
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2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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Mae West / Great Balls Of Fire

*[ボーカル] Mae West / Great Balls Of Fire (MGM / 1972)

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ハリウッド往年のセックス・シンボルだったメイ・ウェスト。ビートルズのサージェントペパーズの左上から3番目に映っているのがメイその人。ビートルズのメンバーは4人ともメイ・ウェストのファンだったみたい。で、こちらは60年代の狂騒を過ぎた1972年にMGMよりリリースされた、おそらく?当時の若者をターゲットにしたレコード。

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考えてみると、メイ・ウェストの全盛期って1930年代。1893年生まれですよ!ロック史でいうと、1930年代半ばにレコーディングを残したロバート・ジョンソンですら1911年生まれですからね。だから、1972年の本盤レコーディング時にメイ・ウェストは79歳!エライおばあちゃんだったということになる。一般的に女優の歌はご愛嬌という印象があるけれど、全然聴けますね。音を外しているとかはなく、流石は歴戦のハリウッド女優。タイトル曲のジェリー・リー・ルイスのロックンロール”Great Balls Of Fire”はちょっとタイミング遅れてる箇所もなくはないけど、ちゃんと歌えている。ビル・ヘイリーの”Rock Around The Clock”も最高。自分が79歳になったとき、コレをこんな風に歌える自信はない。あとは狂おしいドアーズの”Light My Fire”とかね。むちゃくちゃいいですよ。陽気なニール・セダカ”Happy Birthday Sweet Sixteen”も大変よろしい。

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 “Men”のギター・ソロがむちゃくちゃファンキーでスリリングなんだけれど、誰が弾いているんだろう。クレジットはない。シャーリー・バッシーのキラー”Spinning Wheel”のギターを思わせるプレイ。

 

ちなみにアルバムのプロデュースは、至上最強の懐古趣味男、イアン・ウィットコム(”Men”はイアンの曲)。今年4月に惜しくも亡くなりました。ボーカルにはマイク・カーブ・コングリゲーションも加わってメイを盛り立てる。f:id:markrock:20200815133504j:plain

PIZZICATO ONE / 前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン

*[日本のフォーク・ロック] PIZZICATO ONE / 前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン (Verve / 2020)

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いつか聴いてみたいと思った夢が叶ったシンガー・ソングライター自演盤。ピチカート・ファイヴ小西康陽ソロ・プロジェクトであるピチカート・ワン(PIZZICATO ONE)名義、2019年10月の台風前夜のビルボードライブ東京&大阪でのライブ録音『前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン』小西康陽自身ライナーで、「いまごろになってようやく作者が自ら歌う、という趣向のアルバムを作るのは、無邪気で幸福なことなのか、あるいは愚かしく哀れなことなのか」と語っているけれど、シンガー・ソングライター好きの小西にとっても、長年温めてきた夢が叶ったアルバムなのではないかと想像する。渋谷系の象徴のようなピチカート・ファイヴが動のイメージだとするならば、前園直樹グループ参加以来の流れを汲む静のイメージ。ドラムス、ウッドべ-ス、ギター、ピアノ(矢舟テツロー)、そしてビブラフォンが実にいい味を出していて(なんと『TIM HARDIN 3』が本盤のモデル!)、観客の拍手までもが演奏のサムシングを形作っている。

 

しかしこうしたシンプルな演奏で聴くと、削ぎ落されて残った楽曲の素朴な魅力に気づかされる。「めざめ」は、はっぴいえんどの未発表・松本―細野曲(バーンズ時代の楽曲)と同タイトルだけれど、ドラムスの入りが、松本―細野による「夏なんです」を思わせるものだったり、「東京の街に雪が降る日、ふたりの恋は終わった。」には、大貫妙子「突然の贈りもの」やラングストン・ヒューズ+ボリス・ヴィアンによる高田渡加藤和彦フォーク・クルセダーズ)などで知られる「おなじみの短い手紙(大統領様)」の残り香を感じ取ったりと、発見も多かった。「メッセージ・ソング」のボーカルには小西康陽の本気を見たし、「テーブルにひとびんのワイン」の弾むような演奏にも魅了された。かつてアンニュイという言葉の意味を理解できたような気がした「また恋におちてしまった」も素晴らしかった。

 

リアルタイムでピチカート・ファイヴを聴いていた90~00年代初頭、音楽業界はまだまだバブリーでとても気が付かなかったが、パーソナルな小西康陽の消せない喪失感や「このまま続くわけがない」という刹那を、野宮真貴のフラットなボーカルでなぞってみせていたのかもしれない。

Luther Allison / Luther’s Blues

*[ブルーズ] Luther Allison / Luther’s Blues (Motown/Gordy / 1974 )


ブルーな時ほど沁みますね…憂さが晴れると言いますか。ブルーズは憂さ晴らしだと改めて思いつつ大音量で聴いている。ブルーズって言うと、オリジナル盤はむちゃくちゃ高くて、ジャケが安っぽい再発で買うしかないイメージ。そこで留飲を下げるのがVIVIDやP-Vineの良質邦盤リリース、というパターン。でも狭く深い世界だから、どこの中古屋でも余り入荷がなかったんですよね。それが最近ブルーズの米盤レコがたまに格安でドンと出るようになりました。コテコテのその世代の方々がとうとう手放しているのかも。往々にしてシールドやコンディション違いの複数盤もあったりして、予備用に買ったりしてたのかな?

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こちらのルーサー・アリソン『Luther’s Blues』もシールドで発見。46年の時を経て開封しましたが、ホコリでムセました…1974年のモータウン/ゴーディ移籍後の2枚目。モータウンに来る前はデルマークから1969年に1枚出している。

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個人的に男性の演者によるブルーズはフォークへの関心からカントリー・ブルーズ経由で入り、クラプトン界隈のルーツ探訪で興味が広がった。ロバジョン、ブラインド・ウィリー・マクテルの類からBBキング、マディ・ウォーターズバディ・ガイハウリン・ウルフジョン・リー・フッカーとか行きまして(ライトニン・ホプキンスだけは沢山聴いたけどなぜかハマらず…)、大先輩から教えてもらったジョニー・ウィンタースティーヴィー・レイ・ヴォーンからのロニー・マックで弾きまくりのギターものに本気で開眼した感じ。金太郎飴のエルモア・ジェイムズも飽きることがなくなって(笑)マジック・サムとかアルバート・コリンズも最高だったし、ギター・プレイヤーではないけれど、ジェイムズ・コットンの名盤にもしびれた。でもその辺の世界を聴き進めていくと、ギターの音がクリアで迷いがなく、歌うように弾けるプレイヤーはそんなに多くないような気がしてきた。だからこのルーサー・アリソンに出会ったときには、思わず、待ってました!って感じ。1939年生まれということでマジック・サム(1937年生まれ)やバディ・ガイ(1936年生まれ)なんかと同世代ということになるんだけど、ロック世代の柔軟な感性やリズム感覚を持っていた。モータウンが契約したのもそうした先見の明だろう。

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だから、ファンキーな感覚を取り入れて大変身した1976年の次作『Night Life』(表題曲はウィリー・ネルソンの代表曲)は当然の帰結。メロウな時代のムードを捉えつつ、全体的にギターが後景に退いた感があるものの、リチャード・ティー、スティーヴ・カーン、ドクター・ジョンブレッカー・ブラザーズらが参加したモダンで都会的なニューヨーク的センスは曲によってはソウルと呼んでも良い音だけれど、ガナリはブルーズそのもの。今聴いても新鮮だ。

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『URCレコード読本』が出ました!

*[コラム] 『URCレコード読本』が出ました!


コロナで発売予定日が後ろ倒しされたりもしましたが、URCレコード読本』シンコー・ミュージック・ムック)が7月31日に発売となりました。後世に残したいURCの50曲(なぎらけんいち「葛飾にバッタを見た」、加川良「教訓1」、赤い鳥「竹田の子守歌」)&コラム「高田渡~永遠の「仕事さがし」」を書かせて頂きました。

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ちょうど原稿を送った直後に、あの騒動の渦中の杏さんがYouTubeで「教訓1」をカバーしたんですよね。時代を超えたメッセージソングだと感じ入った次第。

www.youtube.com


本が届いて改めて全部読みましたが、初出エピソード多数で贔屓目抜きで面白い!編集の荒野さんによる、歴史に残る労作だと思います!

www.shinko-music.co.jp


アーティストたちの証言で綴る“日本初のインディ・レーベル”の軌跡

1969年に設立され、フォーク・ブームの牽引役となった“日本初のインディ・レーベル”、URCレコード
50年の節目にふたたびリイシューがスタートした同レーベルの歴史を、所属したアーティストたちの証言を手がかりに、改めて徹底検証する。
「後世に残したいURCの50曲」もピックアップ。日本のポピュラー・ミュージックを一変させた先駆的レーベルの実像に迫る保存版!

【CONTENTS】
名曲セレクション
後世に残したいURCの50曲
URCレコードの歴史(小倉エージ)

アーティストによる証言①
高石ともや
中川五郎
中川イサト
休みの国

元ディレクターによる証言
レコード制作現場の実状(小倉エージ)

アーティストによる証言②
金延幸子
ティーヴ・ガンが語る金延幸子の魅力
斉藤哲夫
大塚まさじ
三上 寛
なぎら健壱
古川 豪
やぎたこが語るレジェンドたちとのコラボ

世代別URC体験トーク・セッション
Soggy Cheerios(鈴木惣一朗×直枝政広)
中村ジョー(イーストウッズ/元ザ・ハッピーズ)×石垣窓(フリーボ)
佐藤良成(ハンバート ハンバート)×前野健太

コラム
岡林信康:『岡林、信康を語る』で明かされたURC在籍時の心情
高田 渡~永遠の「仕事さがし」
今日的視点で見るURCレコードの後継者たち
URC50周年記念コンピレーションCD

フーテナニーってナニ?

*[コラム] フーテナニーってナニ?

 

「HOOT」は「フーテナニー」の意でフォーク・エラによく使われた言葉。アバのメンバーになるビョルン・ウルヴァーススウェーデンで作ったフォーク・グループはフーテナニー・シンガーズだったけれど、これは流行語をそのまま使っちゃったベタな恥ネーミング(笑)スウェーデンは当時、英米より文化的時差があったとわかる。「フーテナニー」は元々世界恐慌後の1930年代・ニュー・ディール時代に米・民主党のヒュー・デ・レイシー(共産党員でもあった)の団体が使った言葉で、後にピート・シーガーウディ・ガスリーといったアメリカン・フォークの父が定着させた。その中身は、複数のアーティストを集め、観客と一緒に歌う(シング・アウト)というライブのスタイル。ハコ的には、ワンマンを任せられない新人に数曲ずつ発表の機会を与えて彼らの家賃の支払いを助けつつ、いろんなアーティストのステージを観たい客のニーズも同時に満たせた。自分さえよければ、ではないリベラルの発想ですよね。こういうのがあったから、洋邦問わずフォーク世代のミュージシャンは思想的に留まらず、人間関係の面でも連帯できたのだろう。そう思うと、フォーク世代以後のベテラン・ミュージシャンは、今こうした連帯が弱いから、ちょっと可哀そう。格差を自己責任とか言って見過ごす時代になり、1・2曲、昔のヒット曲だけちょろっと歌わしてもらえるイベントでもなければ採算も合わないから、ビッグイベントのオファーはまず一向に来ない…そんなベテランも多いんじゃないかな。固定ファンばかりだと、ファンが増えることはないから、業界も尻すぼみになって。ま、フーテナニー的なイベントは今もなくはないんですけどね。アコースティック系が多いけれど、それは入れ替えのセッティングに時間を取らないからだろう。

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 前置きが長くなったけれど、この『HOOT TONIGHT!』( Warner / 1963 )なるライブ盤、カリフォルニアのハーモニー・ポップの伝統に位置するモダン・フォーク・カルテットのライブが2曲(”Jack Fish”と”Jordan’s River”)収められているから入手してみた。いわゆる白プロモだが、あまり売れなかったのかな。聴いてみると、ソロ作をよく聴いていたバド・ダシェル(&キングスメン)とか、ゲートウェイ・シンガーズ(メンバーのルー・ゴットリーヴはグレン・ヤーブローらとライムライターズを作り、トラヴィスエドモントンは抜けた後、バド・ダシェルとバド&ダシェルを作る)とか。そしてリン・ゴールドが歌う美しい”Anathea”のクレジット「Terry Collier」に惹きつけられた。テリー・コリアーとあるけれど、黒人フォークシンガーでフリーソウル界隈でも持て囃された「テリー・キャリアー(Terry Callier)」では?と思って調べると、彼の最初期のクレジット作品のようだった。テリー・キャリアーはデヴィッド・クロスビーと60年代に短期間デュオを組んでおり、シカゴにツアーで訪れたミリアム・マケバのバッキングを担当していたジム・マッギンことロジャー・マッギンにデヴィッドを紹介したんだとか。バーズ(The Byrds)結成前夜のエピソードである。

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Spyder Turner / Stand By Me

*[ソウル] Spyder Turner / Stand By Me ( MGM / 1968 )

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昨日買ったレコで、一番はじめに聴き始めてみた。デトロイトで育ったソウル・シンガー、スパイダー・ターナーの代表作『Stand By Me』。本名はドワイト・D・ターナーで、スパイダーは彼につけられたニックネーム。”Stand By Me”はもちろんベン・E・キングの代表作で、ジョン・レノンもカバーしたあの曲。ジェイムス・ブラウンの”I Feel Good”やスモーキー・ロビンソンの”My Girl”、チャック・ジャクソン”Any Day Now”などの唄真似がこれでもかと織り込まれる楽しい仕上がり。サム・クックの”You Send Me”が織り込まれるあたりで、スパイダー・ターナーも演っていたドゥ・ワップ的階段コード進行の曲だなと改めて気付かされたり。このカバー・ヴァージョンは1968年にそこそこヒットして一躍時の人となった(ビルボード12位、R&Bは3位)。アルバムにはサム&デイヴ”Hold On I’m Coming”やジェリー・バトラー”Your Precious Love”といったソウル・ヒット・ナンバーに加え、”Moon River”や”Dream Lover”なんかも含まれていて、ビリー・スチュワートとか、ジャッキー・ウィルソンのような白人聴衆寄りのメロウなソウルを演じるイミテーターだったとわかる。ただ、スパイダー自身もそれに不満を感じたのか、後にノーマン・ウィットフィールドの元でレコードを作ることになる。アルバム『Stand By Me』で素晴らしいと感じたのはアップなノーザン・テイストの”I’m Alive With A Lovin’ Feeling”。「ヘヘイヘイ」とか言っちゃう、そっちの筋の人には堪らない楽曲。アルバムの全編アレンジはマイク・セオドアとデニス・コフィー!

長谷川博一さんの本『追憶の泰安洋行』

*[コラム]  長谷川博一さんの本『追憶の泰安洋行

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連載を胸躍らせながら読んでいたので、こんなに突然のお別れになってしまうとはいまだに信じることができない…音楽ライター、本物の音楽ジャーナリストだった長谷川博一さんのことだ。細野晴臣が1976年に残したトロピカル三部作の第二章泰安洋行を関係者のインタビューや分析を交えて深掘りする、という2016年7月~2018年11月のレコードコレクターズ誌連載がこの度一冊の本、長谷川さんの遺作として世に出た。当時連載を読んでいて、久々にお金を投じる価値のある雑誌記事を読んだ気持ちになったことを思い出すし、長谷川さんも、近年の音楽評論の低潮を憂いつつ持ち前の気概で書いた文章だと推測する。ワールドスタンダード鈴木惣一朗さんのあとがきもまた不思議なもので、アパートでレコードを聴き合う良き友人だったふたりが30数年ぶりに再会、打ち合わせ中に「(入院して)声帯を除去するかもしれないから、話すのは最後になるかもしれないなぁ」と(長谷川さんから)知らされ、数日後に訃報を聞いたのだと…さらにその数ヵ月後「長谷川博一」という着信が鈴木さんの携帯に鳴り、リダイヤルすると、見知らぬ人が出て…それを長谷川さんが託したメッセージと受け取ってこの本は完成したそうだ。

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 個人的には中高生の頃、NHK-BSロック大全集という洋楽の生演奏(しかもサタデーナイトライブ!)を流してくれる番組に夢中になった。YouTubeもなく、動くミュージシャンをおいそれと観れなかった時代。動くジャクソン・ブラウン、ランディー・ニューマン、ポール・サイモンジェイムス・テイラーニール・ヤングボブ・ディラン…ビデオテープが擦り切れるくらい観ました。そこに南こうせつ奥居香と一緒に出演していたのが気鋭の若手音楽評論家・長谷川博一その人。ロック世代のミュージシャンと同世代の評論家にありがちな(悪くいえば)「俺たちの~」「マブダチの~」といった暑苦しく独善的なスタンスとは対照的で、長谷川さんの知的/クールかつ俯瞰的なまなざしと、音楽への温かい理解・飽くなき愛情・包容力に、私はロックやフォークといった音楽に接する態度そのものを教わった。

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 初めてお会いしたのは、これまた私の人生を変えることになるエレックレコードの方々が再集結した「エレック唄の市2009」(於・九段会館)。たしか前座の演奏とケメさん、生田敬太郎さんあたりを見た後でロビーに出たら、一目で「あっ長谷川さんだ!」と。大柄でネルシャツがとてもよく似合っていた。恐れを知らぬ私が、「NHK-BSの番組の大ファンでした」…なんて話しかけると、とても喜んでくれて、ライブのセットリストを見せてくれた上で「じゃあ飲みに行きますか、でもチケットせっかく買って来てくれたのに悪いかな…」なんて。でも二つ返事で飲みに行くことになって、お茶の水の行きつけの店でご馳走になった。

 

その時、長谷川さんは海野弘の1930年代論を読んでいたけれど、きっとミュージシャンの楽曲ないし背景を理解するためだったのだと思う。本物だと思った。音楽活動を再開したケメのイノセンスの話に始まり、大好きなロックの話、フォークの話、長谷川さんが雑誌『This』はじめ深く関わっておられた佐野元春さんの話、スプリングスティーンの話、ビートニクの話、エキゾチカの話、政治の話、教育の話、プロレスとロックは似ているという話、仏教にいま関心があるという話…結局話が尽きず、山の上ホテルのバーに場所を移し、ただただ音楽のことや政治のことを話した。純粋に音楽のことが大好きな姿に感動するとともに、初対面の単なる若輩音楽ファンだった私に、偉ぶることなくフラットに接してくれた姿に心動かされた。そして何より長谷川さんが、近代化以来日本にとっていまも永遠のテーマである、西洋との狭間で表現することの有り様を深く考え抜く姿に、感銘を受けたのだった。

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これは、細野晴臣のセルフオリエンタリズム全開のトロピカル三部作を論じた今作『追憶の泰安洋行や2013年の労作・宇崎竜童との編著『バックストリート・ブルース 音魂往生記』白夜書房)(この本、小川真一さんがインタビューを手掛けた荒木一郎『まわり舞台の上で』と共に、古井戸・加奈崎さんの本を作るときの参考にした)にも通底している。そもそも出世作だった『Mr.OUTSIDE わたしがロックをえがく時』(1991年、大栄出版)、『きれいな歌に会いにゆく』(1993年、大栄出版)で、長谷川さんがソングライティングについてインタビューを行った桑田佳祐忌野清志郎宮沢和史佐野元春泉谷しげる山口洋中川敬小田和正吉田美奈子矢野顕子近田春夫、浅川マキ…彼らの価値が30年経っても古びない理由を考えてみてもよいだろう(ちなみにこの本、佐野さんの番組「ザ・ソングライターズ」のアイデアとなったのでは?と長谷川さんに聞いた時、明確な返事はなかったけれど、長谷川さんが亡くなった際、佐野さん自身によって「振りかえれば、この番組を企画した時、長谷川さんの本のことが記憶にあったのだと思う。そのことに感謝の気持ちを伝えたかったが叶わなかった。」と種明かしされた)。

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『追憶の泰安洋行にこんな一節があった。「日本の音楽表現は今、音楽そのものと音楽を使った何か別ものの芸能とに分かれているように思う…細野バンドの面々が生み出すものは、音楽そのもの」…音楽を長く愛してやまないファンの方ならきっとわかって頂けると思う。矢沢永吉さんの取材前日にこんなメールを頂いたこともある。「はっぴい以降の同様の流れを汲む国内アーティストで佐野さんと同じくらいの影響力(知名度も含め)を持つ人がきわめて少ない、ということが日本のロック界の大きな不幸なんですよね。」「佐野さんレベルの知力の人が後塵にもう5人くらいいたら日本の業界も、もっとロック的だったろうなと思います。そのうちの一人が自分ではないかと勝手に自認してもいるのですが。」…この長谷川さんの言葉にも深く同意するほかない。「きっと石浦さんだったら、「ランニング・オン・エンプティ」とプロレスの意味の相似を理解してもらえるのではないかと思います。」とメールを頂いた後に読ませて頂いた三沢光晴外伝』。長谷川さんのアナザーワークの中でも指折りの名著だった。その後、しばらく連絡が取れなくなってしまって、昨年の訃報を聞いた。それでもまた、いつかどこかで、お会いできると信じている。これからも、長谷川さんがそうであったように、音楽を信頼していきたいと思う。

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