*[コラム] タツローさんからの贈り物
東京はいつもの賑わいが戻ってきている。しかし人手が戻ってくれば感染者も増える…ということで。これは当たり前かもな、と思う。社会的距離を保つ、ってな生活における人間の耐性の限度をとうに超えてしまったのだろう。リアルに近づける科学技術も、リアルを一生超えられない。オンラインも、個人的には、ですが、結論ダメだなと思った。心配なのは、飲食やライブハウスにちゃんとお客が戻るかということ。私は普通に行こうと思ってますがね。ところで最近のマイブームは釣り。車は私乗りませんので、毎週末、電車やら自転車で近場の川まで行くわけですが、人はほぼ誰もいない。苦手なマスクもせずにすむ。遠く離れたところに釣り人は現れ、消えてゆく。たぶん爆発的な人気になることはないけれど、時代を超えて釣り人はいるんだと思う。レコードもそんな感じで生き延びるのかな。そんなこんなで、いつもレコードと楽器と魚のことばかり考えている。
そう、このタイミングで渋谷のレコファンBEAMS店まさかの閉店…あと残るは秋葉原の一店舗のみ。それこそレコードファンのお悔やみがいま、後を絶たないわけですが、引き続き、痛いニュース。30万枚という爆発的な在庫を誇る店で、日本のフォーク・ニューミュージック定番とか、アメリカの無名カントリーとかが450円くらいで常に入手できる最高の店だった。シングル盤もやたらとあったし。最近でもキース・オルセンのいたTHE MUSIC MACHINEの米オリジナルLPが950円で落ちていたりと重宝していた。レコファンといえば吉祥寺レンガ館や池袋のバカでかい店舗にも学生時代の大半滞在したし、西武新宿PEPE店や下北沢店もよく通った。何より高校・大学時代はDISC FUN、ムトウ、タイムと回って、最後はレコファン高田馬場店に「毎日」行っていた。手前にパラパラめくれるCD棚が良くって、時たま黄色札のキズ盤がありまして、当時結構珍しかったビル・チャンプリンのソロ(Airplayレコードからの輸入CD)も格安で買ったなぁ。あと、CS&N関係のLPとかはレコファンの中古アメ盤で大体揃えたし(ジャケに貼られたシールを剥がすのはワザが必要だったが…しかし今見るとマトリクス若いやつとかが無造作に安く売られてた)、輸入盤CDや再発LPの入荷も早かったから、00年代半ば頃までは相当買っていた。国内新譜も割引があったから、まずはレコファンを覗いたもので。しかしそう考えると、値付とか、20年前も最近も、あまり変わらなかったような…ある種のセレクトショップ化したユニオンと比べると切ないが、渋谷レコファン系の博覧強記系のカオス店舗を楽しみたいなら、もはやアメリカにでも行くしかないのか。閉店セールかぁ、辛い気持ちになりそうだけど、きっと行っちゃうな。
しかし、こういうことを言うと、サブスクの時代に何を…とか、時代は変われど形は変わっても音楽は死なないよ、とか空虚なことを言う人もいるんですよね…死なないどころか、実質ほぼほぼ殺されてるぐらいに思ってますよ。東京も大阪も、日本もアメリカやイギリスだって相似形なんだけど、弱い者から強い者へお金を流すことで先進国の上位層の富を維持するという新自由主義は改めていかがなものかと思う。弱者救済のための経済活動規制を緩和すれば格差が生じるのは当前だし、就職氷河期世代の私達なんて人口の多い親世代の富の維持のために捨て駒にされたわけで。人生の後半も引き続き、自分の思ったことをやろうと心に決めている今日この頃です。
で、ライブハウスでのアコースティック・ツアーの一環として高円寺の往年のハコJIROKICHIでライブをやる予定だった山下達郎。TOKYO-FMのサンデーソングブックは高校生の頃から聞き続けているわけですが、5月の緊急事態宣言発令の際の放送時の前説はいつにないムードだった。批判をやめて寛容を保とう、という内容だったわけだけれど、ただでさえライブのキャンセルも相次ぎ、活動が停滞し追い込まれたミュージシャンの窮状や苛立ちを極力抑えつつ、世界中の連帯を説く内容は、聴いていた人なら只ならぬ雰囲気を感じ取り、深く納得できるものだったと思う。それでも一部を切り取って「政府批判をやめろとは何だ」と怒る人や「よくぞ言ってくれた」と持ち上げる人もいて、いずれもラジオさえ、もっと言えば達郎さんのアルバムすらろくに聴いていないのだろうけれど、救いようのないものを感じてしまった。同じ高円寺にある老舗のハコ、ペンギンハウスは閉店になってしまったけれど…JIROKICHI応援Tシャツは達郎さんを、そして音楽文化を応援する気持ちも込めて、買いました。