いしうらまさゆき の 愛すべき音楽よ。

音楽雑文家・SSWのブログ

いしうらまさゆき の愛すべき音楽よ。シンガー・ソングライター、音楽雑文家によるCD&レコードレビュー

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markfolky@yahoo.co.jp

2024年5月31日発売、V.A.『シティポップ・トライアングル・フロム・ レディース ー翼の向こう側にー』の選曲・監修・解説を担当しました。
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[NEW!!]2024年3月29日発売、モビー・グレープ『ワウ』、ジェントル・ソウル『ザ・ジェントル・ソウル』の解説を寄稿しました。

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2024年2月23日発売、セイリブ・ピープル『タニエット』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日発売、ロニー・マック『ワム・オブ・ザット・メンフィス・マン!』、ゴリウォッグス『プレ・CCR ハヴ・ユー・エヴァー...?』、グリーンウッド・カウンティ・シンガーズ『ハヴ・ユー・ハード+ティア・ダウン・ザ・ウォールズ』の解説を寄稿しました。
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2023年12月22日(金)に大岡山のライブハウス、GOODSTOCK TOKYO グッドストック トーキョーで行われる、夜のアナログレコード鑑賞会 野口淳コレクションに、元CBSソニーでポール・サイモンの『ひとりごと』を担当されたディレクター磯田秀人さんとともにゲスト出演します。
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「アナログ鑑賞会〜サイモンとガーファンクル特集〜」 日時:12月22日(金) 19時開演、21時終了予定 入場料:予約2,000円 当日2000円(ドリンク代別) ゲスト:石浦昌之 磯田秀人 場所:大岡山 グッドストック東京 (東急目黒線大岡山駅から徒歩6分) 内容:①トム&ジェリー時代のレコード    ②S&G前のポールとアートのソロ·レコード    ③サイモンとガーファンクル時代のレコード(USプロモ盤を中心に)    ④S&G解散後、70年代のソロ·レコード ※それ以外にもレアな音源を用意しております。
2023年11月25日(土)に『ディスカヴァー・はっぴいえんど』の発売を記念して、芽瑠璃堂music connection at KAWAGOE vol.5 『日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』を語る。 と題したイベントをやります。
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2023年9月19日、9月26日にTHE ALFEE坂崎幸之助さんの『「坂崎さんの番組」という番組』「坂崎音楽堂」で、『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』を2週にわたって特集して頂きました。
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坂崎さんから
「聞きなれたS&Gがカバーしていた曲の本家、オリジナルの音源特集でしたが、なかなか興味深い回でしたね。やはりビートルズ同様に彼らもカバー曲が多かったと思うと、人の曲を演奏したり歌ったりすることも大事なのだと再確認です。」
2023年10月27日発売、『ディスカヴァー・はっぴいえんど: 日本語ロックが生まれた場所、シティポップ前夜の記憶』の監修・解説、ノエル・ハリスン『ノエル・ハリスン + コラージュ』の解説を寄稿しました。
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2023年9月29日発売、『風に吹かれて:ルーツ・オブ・ジャパニーズ・フォーク』の監修・解説、ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー『ビッグ・ブラザー・アンド・ザ・ホールディング・カンパニー』の解説を寄稿しました。
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2023年7月28日発売、リッチー・ヘヴンス『ミックスド・バッグ』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年8月26日(土)に『ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクル』の発売を記念して、西荻窪の素敵なお店「MJG」でイベントをやります。
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2023年6月30日発売、ルーツ・オブ・サイモン&ガーファンクルの監修・解説、ジャッキー・デシャノン『ブレイキン・イット・アップ・ザ・ビートルズ・ツアー!』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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2023年3月31日発売、スコッティ・ムーア『ザ・ギター・ザット・チェンジド・ザ・ワールド』、オールデイズ音庫『あの音にこの職人1:スコッティ・ムーア編』、ザ・キャッツ『キャッツ・アズ・キャッツ・キャン』の3枚の解説を寄稿しました。
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2023年2月24日発売、ビッグ・ボッパー『シャンティリー・レース』、フィル・フィリップス『シー・オブ・ラブ:ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』、チャド・アンド・ジェレミー『遠くの海岸 + キャベツと王様』の3枚の解説を寄稿しました。
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2022年12月23日発売、バディ・ホリー・アンド・ザ・クリケッツ 『ザ・バディ・ホリー・ストーリー』(オールデイズレコード)の解説を寄稿しました。
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Brooks Arthur / Mary’s Laugh Makes Me Cry / The Doll With The Broken Heart

*[45s] Brooks Arthur / Mary’s Laugh Makes Me Cry / The Doll With The Broken Heart ( Kapp / 1963 )

 

「45s」なんていうタグをつけて、手に取った45回転シングル盤を聴いていこうかと。

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これはブルックス・アーサーが1960~63年に3枚出しているシングルのうちの3枚目で、1963年にKAPPからリリースされた「Mary’s Laugh Makes Me Cry / The Doll With The Broken Heart」。アメリカのポピュラー音楽シーンの大物裏方エンジニアとして知られる彼だけれど、例にもれず当初は歌手志望だった模様。本名はアーノルド・ブロスキーだから、名前からすると東方ユダヤ系。音楽業界は偏見抜きでユダヤ系ばかりなんですが、アメリカではこういう分かり易い芸名をつけるのが定番。ボブ・ディランだってそうだった。ファーストシングルはバリー・マンやジャック・ケラーが手掛けたブリル・ビルディング物だったけれど、今作はブルックス自身の手も入り自作自演の色がある。もちろん音は甘いアメリカン・ポップス系でどちらも和むバラード。ブルックスというと、個人的には60~70年代レコのエンジニア・クレジットでよく見る人というイメージ。自身の名を冠したブルックス・アーサー・アンサンブルの盤もソフトロックの文脈で聴いていた。1967年に彼が作ったセンチュリー・サウンド・スタジオはグレイトフル・デッド、ヴァン・モリスン、ビリー・ヴェラ&ジュディ・クレイ、ドーン、メリサ・マンチェスター…とヒットを連発。で、1970年にフィル・ラモーンのA&Rレコーディングスのサテライト・スタジオにブルックス命名した914サウンド・スタジオが選ばれると、そこからはブルース・スプリングスティーン、ラウドン・ウェインライトⅢ世、ジャニス・イアンメラニーラモーンズ、トム・ラップなどなど、名作が世に送り出されることになる。ちなみにポール・サイモンビリー・ジョエルの仕事で知られるフィル・ラモーンの弟子筋に当たるのが、いまだ現役大活躍中のボブ・ラドウィッグ。

どうにかなるさ

*[コラム] どうにかなるさ

 

皆様いかがお過ごしでしょうか。お元気でしたら何より…とうとう緊急事態宣言が全国へ。一昨日の会見を見ていたら、「この際」とかなんとか。一律10万円にしたから「この際」持ってけドロボー!みたいな話なのか。辿り着くまでのプロセスを思うと、我々の税金の使い道を決める人はちゃんと決めなければいけない。国政は全国民の代表として公務を全うすべき場であるはず。でも地元の代表さえ選んでおけばおこぼれに与れるとか、自分さえ得できれば良いとか思う人が後を絶たないから、こんな様になるのか。選ばれた方もそりゃ傲慢になる。そして公共放送は最たるものとして、複数の利害に絡めとられてしまってメディアも今や余り質が高くない。感染者だってどう考えても少なく操作されているのに、誰も正面から突っ込まない。基本隠し、仲間外れにする文化のあるムラ社会のクニだから仕方ないのか。でも日本のツイッター社もフェイスブック社も、どういう人たちと組んで世論誘導に使っているソーシャルメディアか、って考えると、仏様の手のひらに載せられているということにもなる(とはいえ仏様ではたぶんない)。ポピュリスト政治家がサクラを金で買ってソーシャルメディアを駆使するのはそういう意図になる。テレワークの現状を見てもわかるけれど、コロナ禍を経て、太い情報通信網を持つ親玉がここぞとばかりに今後市場をかっさらっていくことは目に見えているような。ペスト後に資本主義経済が成立したヨーロッパ近代の始まりを思い出してみてもよい。

 


色々言いつつ…行政の対応が遅かっただけで、結論いまは最大限家にいるのがベストであることは間違いない。当たったもん勝ち的な投機的言論に支配された無駄なSNSのチェックも最低限に止め、自分や家族の生活を守り合い、本やレコードに勤しみつつ、余裕があれば、営業自粛で経済的に困ってしまう産業にネット等を通じて意識的にお金を落とすということ。これが今できうる限りの何か。

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さて、今日は1976年のフォーライフからリリースされた『OLD BOY』。これは小坂一也、寺本圭一、ジミー時田、石田新太郎というカントリー四人衆のライブレコーディング。アメリカでいうところのジョニー・キャッシュ、ウェイロン・ジェニングス、ウィリー・ネルソン、クリス・クリストオファスンによるスーパーグループ、ハイウェイメンが1985年のリリースですから、こっちが先!もっと言えば、エルヴィス・プレスリージョニー・キャッシュジェリー・リー・ルイスカール・パーキンスのミリオンダラー・カルテットが商品化されたのが1981年ですから、そっちよりも先ですね。ジャケのデザインも80年代の企画モノを先取りしていたような。ミキサーは吉野金次。んで、ここにムッシュかまやつがゲスト参加し、小坂一也と「どうにかなるさ」を唄うんですね。なんか沁みた。小坂はここでムッシュとも懇意のフォーライフ吉田拓郎の「おやじの唄」も良い感じでカバーしている。

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Jason Scheff / Here I Am

*[AOR] Jason Scheff / Here I Am ( Bassline Productions / 2019 )

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このベタベタな盤を何気に最近よく聴いている。デビューから50年を超えたシカゴ、ピーター・セテラ脱退後の傀儡と謳われたジェイソン・シェフのリメイク・ソロ盤。シカゴのパワーバラードの名曲がちゃんとスタジオ再録音されている。後釜の印象も強いけれど、加入して31年在籍したわけだから(2016年に脱退)、ピーターの加入期間を超えていたことになる。

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ソロとしては2枚目になるのかな。ファースト・ソロは高校生の頃、高田馬場にあった中古盤店タイムでサンプル盤を買った記憶がある。TOTOボビー・キンボールジョセフ・ウィリアムズ、そして当時シカゴに在籍していたビル・チャンプリンと共にWest Coast All Starsというアカペラ企画グループを組んで2枚アルバムを出したこともあった。これも高3か大学生になりたての頃に買ってよく聴いていた。

 

で、今回の盤はジェイソン加入後のシカゴの大ヒット”Will You Still Love Me?”に始まり、シカゴではビル・チャンプリンがメイン・ボーカリストだった”Look Away”(しかもビルもボーカルで参加!)、”What Kind Of Man Would I Be?”、そしてピーター時代の”Feelin’ Stranger Everyday”や”Hard To Say I’m Sorry”も演っている。アレンジは原曲に忠実で、これは正解だと思った。”Saturday In The Park”のオマージュ的メロディを持つ”Wonderful Day”も入って、完成度はかなり高い。プロデューサーはナッシュビル・カントリー・ポップの雄、ラスカル・フラッツのジェイ・デマーカス。ラスカル・フラッツのパワー・バラードはシカゴ的だと感じてブレイクした頃よく聴いていたけれど、こんな所で結びついた。

 


ちなみにパワーバラード(バラードにロック・バンド、とりわけ歪んだエレクトリックギターのソロを入れるという今となっては定番のアレンジ)のアイデアの元はカーペンターズの”Goodbye To Love”。んで、そうした楽曲のメロディの原型を作ったのは間違いなくバリー・マン。バリーがダン・ヒルと共作した”Sometimes When We Touch”みたいのがプリAORバラードの名曲でした。そのダン・ヒルと同郷カナダのデヴィッド・フォスターが、バリー・マンの正統な継承者でしょう。”Hard To Say I’m Sorry”を聴くとそれがよーくわかる。そして、デヴィッドの継承者がレズビアンのアーティスト、ダイアン・ウォーレンですね。エアロスミス” I Don't Want to Miss a Thing”で知られている。ジェイソンの本盤でリメイクされている”Look Away”もダイアンの作。そういえば、何年か前にジェイソンのsoundcloudを覗いていたら、おそらく無断で、ダイアン・ウォーレンの”Look Away”のデモ音源をアップしてたんですよね。この辺が二世ミュージシャン(ジェイソンの父はエルヴィスのベーシスト、ジェリー・シェフ)の脇の甘さか(笑)ソングライターのデモを長年集めている私はすかさずコピーしてしまいましたが…しばらくして消されました。ダイアンの音楽出版社が出しているデモにも何曲かダイアン歌唱のデモが入っているが、そこにも未収録だったもの。

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最後に我が家のお宝、シカゴのメンバーのサインが全部入った『Chicago18』。たぶん業界関係者がお亡くなりになったかで売ったものだと思われるけれど、某レコード100円市にこういうものが沢山出ていたうちの1枚。家を傾かせるぐらい、あるいは人生を狂わせるぐらい(まぢで)レコードを買っていると、時々嬉しいことも
ある。

自粛の東京・高田渡を聴きながら

*[コラム] 自粛の東京・高田渡を聴きながら

 

何か時代の先行きがおかしいぞ、ってな嫌な予感はこんな風に進むものなのでしょうか。オリンピック問題と実は根っこが一緒だと思うけれど、コロナ禍が行きつくところまで行ってしまった。空気を読む日本人の場合、志村けんさんの死がなんだかんだ大きかったと思う。個人的には出生地が東村山だし、今住んでいる三鷹に志村さんも住んでいたから、ってか、カトケン世代ですから、ショックは大きかった。志村さんの笑いに感じた反権力性。偉ぶらず、歳食ってもちゃんとコントやるっていう。そういえば印象的な共演者の優香さんは武蔵村山出身だったはず。西東京出身の人だったらわかると思うけれど、周囲から見たら似た者同士ながら、微妙に志村さんがいじれる関係性。千鳥の大悟さんに至っては瀬戸内海の島出身でしたもんね。それでも、「お前ここまでよく頑張ってきたな!」っていじった後に褒めてたんじゃないかな、きっと。想像だけど。それにしても志村さんの共演者のいずれもが、優しくて性格好さそうなんだな…現代世界を覆う新自由主義の経済合理性の発想はこういう所に価値を認めないし、彼の死の痛みが消えぬうちに功績だとか言ってしまう。

 

こんなある種の有時だからこそ、平時には素通りしていた本性が晒される部分はある。社会のほとんどが音楽とか芸術を(恐れているがゆえ)軽んじてること、取り換え可能な労働者として人間そのものが大切にされていないこと、男性よりも女性を下に見ていること、人間を自然より優位に置いていること…自粛の要請ってのも変な言葉ですね。経済的損失の責任を取る気はないけれど、自発的にお上の意向に共鳴させるっていう。教育勅語天皇のお言葉とし、内心の自由に触れない範囲で自発的に共鳴させることで戦争責任を回避した構造と全く同一だ。ちなみにここで左か右か、とか言ってしまうのは冷戦的思考だということになる。

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ところで緊急事態宣言に踏み切るまでのネットニュースの見出し…まさに高田渡の「値上げ」そのものでしたね。ありがたいことに先月末、50周年を迎えたURCアングラ・レコード・クラブ)に関するムック執筆のお話を頂き、高田渡のキャリアを再び辿り直していたところだった。うーん、やっぱりこういう時に響くんだな。持っていなかった参考文献もこの際とばかりに集めてみた。中でもビレッジプレスから出ている『雲遊天下』のバックナンバー「特集 高田渡の夜」(125巻・2017年)、「秦政明とURC」(34巻・2003年)は面白かった!渡さんの目線で生きていれば、こんな毎日も、相も変わらぬ日常だったのではないだろうか。

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ボブ・ディランが歌う「Murder Most Foul」

*[コラム]  ボブ・ディランが歌う「Murder Most Foul

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多くの人がお聴きになっているかと思いますが。3月27日に突然デジタル/ストリーミングで公開されたボブ・ディランの新曲(というか未発表曲)「Murder Most Foul」。トピカル・ソング(時事歌)の親玉がとうとうお出ましになったな、という。オリンピックが無くなると同時にニッポンの首都でも大変な騒ぎになっているわけで。ディランの来日も中止になった。まぁ、また聞きした近所の某・旧公営企業の方からの噂だと、社員で10人感染者が出てたけど隠してたとかいう話なんで、そりゃそうだろな、という。大本営発表を信じている方が、よっぽど人が良すぎるということにはなるだろう。


そんなこんなで、ジャクソン・ブラウンが、志村けんが…と、悲惨な現実ばかりに右往左往しているそんなタイミングでディランの声を聴いたら、なんだかグッと来てしまった。


現状のディランの最新・オリジナル・アルバムは2012年の『Tempest』。タイトルの「Tempest(嵐)」はシェイクスピア最後の作品(と言われているもの)のタイトル。当時はまだオバマ政権だった。その後は『Shadows In The Night』(2015年)に『Triplicate』(2017年)とアメリカン・スタンダードを血肉化した力作をリリースしているわけだけれど、トランプ政権のポピュリズム「嵐」が吹き荒れて以来、彼の肉声を伝えるオリジナルの新曲はいまだに発表されていなかった。

 

いま、ボブディランは何を考えているのか?


そんなわけで、期待をこめて耳にした「Murder Most Foul」。やはりシェイクスピアハムレットに登場するフレーズからタイトルを選んでいる。直訳すれば「最も非難される殺人」ということになる。1963年11月、アメリカ史上最も人気のある大統領だったJ.F.ケネディが遊説中のダラスで暗殺された事件をテーマに選び、淡々と綴ってみせた17分にも及ぶ、ある種のマーダー・バラッドだ。

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ディランがケネディに譬えたものは、人々の現実を常に導いてくれる理想や普遍理念だろう。もちろんケネディ自身、マリリン・モンロー(この歌にも登場する)との不倫にしても、現実的には聖人君子とばかりは言えず、問題を抱えてもいた。それでも、キング牧師公民権運動を支持し、黒人と白人を平等とする公民権法を成立させ、「Murder Most Foul」にも引用されていた、「国があなたのために何をしてくれるかではなく、 あなたが国のために何ができるかを問う(Ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country.)」という大統領就任時の言葉で多くの若者達を共感させた。ディラン自身、2010年にホワイトハウスに赴き、ケネディと同じ志をもつオバマの前で「時代は変わる」を歌っている。


しかし、そうした理想を無残にも打ち砕く絶望の前で、何をなすべきか。ディランは引用に次ぐ引用で音楽と共に歴史を振り返ってみせる。その引用は多岐にわたっている。一聴しただけでも、ビートルズの「抱きしめたい」(The Beatles are comin', they're gonna hold your hand)、ジェリーとペースメーカーズの「Ferry 'cross the Mersey」、ウッドストック、ヘアー/フィフス・ディメンション(Aquarian Age)、オルタモント、エヴァリー・ブラザーズ(Wake up, little Susie)、ロバート・ジョンソン(I'm going down to the crossroads, gonna flag a ride)、ラリー・ウィリアムズ(Dizzy Miss Lizzy)、パッツィ・クライン、トム・ジョーンズ(What's new, pussycat?)、レイ・チャールズ(What'd I say?)…などなど。1964年にデビー・レイノルズパット・ブーンが出演した映画『Goodbye Charlie』よろしく、「グッバイ・アンクル・サム!(Goodbye, Uncle Sam!)」(つまり「さよならアメリカ」)と言って見せたり、黒人文学の雄ラルフ・エリソンの代表作のタイトル「見えない人間(Invisible Man)」というフレーズも見てとれた。ちなみにもっと言うと、『Goodbye Charlie』と同じ1964年にアガサ・クリスティ原作の映画『Murder Most Foulが存在してるんですが。

 

ドキッとしたのは、「自由よ、おお自由よ」という公民権運動のアンセムを唱えた後につぶやく「言いたくはないけど、死人だけが自由だ(I hate to tell you, mister, but only dead men are free)」という言葉。ケネディ以前と以後でアメリカは変わってしまった…というかのような語りは、ドン・マクリーンが、バディ・ホリーリッチー・ヴァレンスを載せた飛行機が墜落したことを「音楽が死んだ日」と唄った大作「アメリカン・パイ」を思わせた。その「アメリカン・パイ」がヒットした1971年のアメリカ…ベトナム戦争に疲弊し、古き佳き60年代アメリカへの郷愁が広まっていた。その一瞬の輝きをノスタルジックに描き出したジョージ・ルーカスアメリカン・グラフィティが公開されたのは1973年のことだった。

 

だから今回、ディランが歌の後半で、アメリカン・グラフィティに登場する伝説のDJウルフマン・ジャックに、「Only The Good Die Young」(ビリー・ジョエル)、「Please Don't Let Me Be Misunderstood」(アニマルズ)、「Another One Bites the Dust」(クイーン)、エタ・ジェイムス、ジョン・リー・フッカー、(Take it to the limitのフレーズを引用して)ドン・ヘンリーグレン・フライイーグルス)、オスカー・ピーターソンセロニアス・モンクを…そして「Murder Most Foul」をプレイしておくれ、と切々と懇願する気持ちは、痛いほどよくわかった。アメリカは、いや世界は、多様であるからこそ、普遍理念でしか一つになりえないという矛盾。でもディランはハッと正気に返ってみせる。「心配しないで下さい、大統領、あなたのブラザーが助けに来てくれます」「ブラザー?どこのブラザーだ?」…まさに冗談じゃない、って言うんでしょうか。宗教とかそういったものが、現実を必ずしも救いきれないことには自覚的だ。それでも延々と、ウルフマン・ジャックに「曲をかけてくれ…」って頼むんですよね。『アメリカン・グラフィティ』を観る限り、ウルフマンは音楽の神様であり、ティーンエイジャーのイノセンスを受け止める神様。いつも起きてるんじゃないかと思ってしまうくらい、いつでも、どんな時でも、リスナーの心に寄り添い、チューニングを合わせれば、ゴキゲンな音楽とともにグルーヴィーなお喋りで包んでくれる。こんな時、ディランが音楽に一縷の望みをもっていることこそが、救いだと思えた。

3月21日はナイアガラの日

*[コラム] 3月21日はナイアガラの日

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気付けば昨年から永井博づいていたという。シティポップ熱に載せられたのか…タワレコで見つけたファブリックパネルで冬でも夏気分という。niko and…の時計も、ね。そう、昨年ニルソンのニューアルバムが出て、大滝さんも…とかブログに書いていたら、正夢になったという。

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そう、3月21日ですよ。ナイアガラ・ファンが毎年楽しみにしているリリース・デイなんだけれど。デビュー50周年の大滝詠一、最後のソロ・ニューアルバム、という触れ込みの『Happy Ending』のリリースが決まった時、フィジカルなパッケージでのニューアルバムを楽しみにする、という高校生位の頃に味わっていた久々のドキドキ感を10年ぶりくらいに味わえたと同時に、こんな気持ちになれるのはもしかすると(悲しいけれど)最後なのかもしれない、と思えたのだった。それがこのコロナ騒ぎもあって、大滝さんの故郷・東北の方々の悲しみを偲びつつ、こんな気持ちでその日を迎えることになるとは。

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とはいえ私はCDもアナログもどっちも注文しましたが。

 

しかし大滝詠一という人は基本、近現代的・モダンの人だったんだな、という気がする。1979年というのが(よく言われる)モダン[近現代]とポスト・モダン[脱近現代/近現代以後]の切れ目だったわけだけれど、大滝さんのブレイクはポストモダンに入った頃。それでも彼はメディアを使って一斉消費させる、いわゆるモダンの大衆文化を心底好んでいた人だったと思う。3月21日の再発でしのぐシステムとか、信者を作るシステムも、近代新宗教的ですらあったわけだし。今後もジミヘン商法のように、ファンがいる限りは続いていくはず。ちなみに国民国家アイデンティティに訴えるのも典型的なモダニスト感覚。伝統芸能や和ポップスの再評価とか、日本に根付いた野球文化の啓蒙とか。サザンの桑田さんも同じ頃にブレイクした人だけど、立ち位置が似ている。歌い回しも大滝さん同様、和洋折衷のこぶし歌謡だし。だからこそ、90年代後半にJ-POPという、今思えば(グローバリゼーションの反動としての)ニッポン(J)回帰現象が起こったタイミングで、その最重要ルーツとして参照・称揚されたのだろう。

 

ただ、アメリカン・ポップスをDJよろしく(といっても大滝さんはラジオDJ!)、サンプリングする感覚はポストモダン的だった。ただし、着地点がニッポンだったから、圧倒的なポストモダン感覚をもっていた細野さんと対照的に、21世紀における世界での再評価は遅れてしまった(ここには偏見も加味していうならば、互いの出身地、東京―地方というアイデンティティの相違も絡む)。あと、松本隆や前述の永井博とのコラボレーションなどでリゾート・ミュージックとして絶妙なバランス、美学を保っていた80年代前半と比べると、復活した90年代後半の「幸せな結末」以降の歌詞やメロディには、そこはかとない和のフレーバーがまぶされていたような気がする(市川実和子の「雨のマルセイユ」なんて曲も)。「Happyending」 →「ハッピーエンド」→「はっぴいえんど」→ 「幸せな結末」ですからね。今回のプレスリリースにも「令和のマスターピース」なんて言葉が躍っていたし。ただ、今回のアルバムタイトルだけは再び和から洋に還った「Happy Ending」でしょう。時代やアーティスト人生の円環運動と解釈しても良いし、海外のはっぴいえんどファンへの、何某かの目配せも邪推してしまう。まあ、そんなことを再検証しつつも、ニューアルバムに身を委ねるのが今から楽しみでならない。

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ちなみに昨年の『ナイアガラ・コンサート’83』もDVD付のCDボックス、歌入りのアナログ、そしてインストゥルメンタルのみの限定アナログ、共に素晴らしかった!六本木蔦屋書店で注文した限定アナログのイニシャルはたまたま「409」だったけれど、ビーチボーイズを思い出したりして!

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Wenchin / Same

*['60-'70 ロック] Wenchin / Same(Buddha / 1975)

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「ウェンチン」という東洋風味なアーティスト名。リリース元のブッダってのもカーマスートラだとか、ヒッピー世代の東洋趣味全開なネーミング・センスだったわけですが。こちらはバブルガム・ポップなアーティ・リップも絡みつつの、1975年という遅すぎたバブルガム・ファンキー・ポップな、ヴォーカリストの唯一のソロ作。全曲が音楽出版社Three Minute Musicのものだというけれど、これ(3分間音楽!)、大滝詠一的コンセプトですよね。

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まず一つ目に注目すべきはキング・ハーヴェストの一世一代の名曲”Dancing In The Moonlight”のカバーが収録されていること。"Come And Get Your Love"で知られるレッドボーンがカバーしたかのような仕上がり!そもそもプロデュースのスティーヴン・ネイザンソンはこの曲で儲けようとした人。スティーヴンとエリックのネイザンソン兄弟は1970年にユナイテッド・アーティストからリリースされたザ・ミュージック・アサイラムというサイケバンドのプロデュースを手掛けていた人たち(ウェンチンの本作プロデュースはステーヴン・ネイザンソン・ア・ミュージック・アサイラム・コンセプト名義)。同1970年にはウェンチンがボーカル・ソングライティングで参加していたオムニバスというサイケバンドも手掛けており、さらに併せて手掛けたのが、後のオーリンズのランス・ホッペンが在籍したボッファロンゴ。そこにはシャーマン・ケリー作の”Dancing In The Moonlight” のオリジナル・ヴァージョンが収録されていた。

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”Dancing In The Moonlight”はボッファロンゴのデイブ・ロビンソンとロン・アルトバッハ(後にマイク・ラブのバンド、セレブレイションに参加)、そしてシャーマン・ケリーらによって結成されたキング・ハーヴェストで1972年ついに大ヒットをつかみ取る。キング・ハーヴェスト版の”Dancing In The Moonlight”のイントロはサザン・オールスターズの”希望の轍”のイントロに借用されている。

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ちなみにウェンチンの本作の冒頭”Havana(Have You Ever Been)”にはファニア・オールスターズより、イスマエル・ミランダとラリー・ハーロウがボーカルで参加。そういえば「サザン・オールスターズ」のネーミングのアイデアの源泉の一つはファニア・オールスターズだった。で、その”Havana(Have You Ever Been)”は1979年の映画『The Warriors』のサントラで、ケニー・ヴァンスwithイスマエル・ミランダ名義で”In Havana”のタイトルでカバーされている。これをコ・プロデュースしていたのがアーティ・リップとスティーヴン・ネイザンソン。そちらにはなぜかコーラスにチェビー・チェイスが加わる乱痴気っぷり。スティーヴン・ネイザンソンはケニー・ヴァンス在籍のジェイ・アンド・ザ・アメリカンズの『Sands Of Time』にボビー・ブルームと共に参加しており、そのコネクションであろう。

 

で、そのボビー・ブルームはウェンチン盤に”Outta Hand”という佳曲を提供。そのボビー・ブルームに楽曲提供しているアンダース&ポンシアのピーター・アンダースがケニー・ラグナと共作した”No Strings”も収録されている。個人的にはピーター・アンダース関連盤と位置付けてもいる。

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ところで「ウェンチン」ってバンドのように言われているけれど、不可解なジャケットを見てもわかる通り、ネイティブ・アメリカン出身と思われるリード・ボーカルの男性(レッドボーンを彷彿とさせるボーカル・スタイル)のこと。本名はロバート・ウェガジン(Robert Wegrzyn)。レコードのスリーブの中に、スティーヴ・ネイザンソン・ミュージックの売り上げ報告書とか、売り上げを誰にいくら配分するか、みたいな生々しいメモが挟み込まれてました。さっき”Dancing In The Moonlight”でスティーヴン・ネイザンソンが儲けようとした、と書いたけれど、このメモには「”Dancing In The Moonlight”は4半期でノン・チャートの動きだが会社は50%の利益を得る、ただしライターはシャーマン・ケリーで、もはやスティーヴ・ネイザンソンには属さない」とか書いてありました。

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